第三十八話 再生
死神騎士を確実に殺したことを確認した俺は、奴を鎧と肉に分解した後、それらを喰らった。
紅の鎧はもちろんのこと、発達した筋肉も硬かったが、グールから得た【鉄歯の加護】によって問題なく咀嚼することができた。
ぐしゅ、ぐしゅ、ぶしゃ、ごっくん。
一人黙々と食べ、飲み込む。
拒否感はあったものの、『鉄胃袋』のおかげで拒絶反応を起こすことはなかった。
「…………」
骨も鎧も残さず食べ終わった俺は、振り返り、亡骸となったレーヴァの元へと向かった。
「――――」
その死体は、言葉を失うほどに美しかった。
首と胴を分かたれた、血まみれの少女。
その肌は透き通るほど白く、虚ろな瞳は色のない宝石のようだ。
頭についた渦巻き状の角や、身に纏う漆黒のドレスは、それが一種の芸術作品であるかのような錯覚を覚えさせる。
ティナに……幼馴染の聖女に出会っていなければ、もしかしたら恋に落ちていたかもしれないと思えるほどに、それは美しかった。
「……ハッ、何を馬鹿な……」
思わず吐き捨てる。
レーヴァの首が跳んだ瞬間に見た、あの光景を思い出す。
白い部屋。
転がっていた無数の首と胴。
握られていた刀。
飛び散り、返り血を浴びていた幼い頃の自分。
俺には、実のところあの光景を思い出せる記憶を持ち合わせていない。
着物を着用するような文化圏で生活していた記憶もない。
だが、あの惨劇は自分が引き起こしたものだと、なぜかハッキリ分かった。
恐らくは、ティナと出会ったあのダーハ―村を訪れる前。
両親を失って精神的ショックから記憶が曖昧になっていた、あの時期。
あの空白の期間の中に、あれはあったのだろう。
どのような経緯でああなったのかは、全くといって思い出せないのだけど。
……それでも、躊躇わずに人を殺していたことだけは、あの光景を見ればわかった。
「それに……」
魔物を喰らい、力を得るようになってから俺は……殺戮を愉しむようになっていた。
斬り飛ばし、血を浴びて快感を感じていた。
それはもう、ライセンスが示すように人がすることじゃない。
人でなし、猟奇殺人者……怪物の振る舞いであった。
そんな俺が、今さら、恋だのなんだのという感情を持つべきではない。
俺はもう、人間とは言えないのだから。
「…………え?」
俺がそうやって自嘲していると、違和感に気付いた。
見間違いかと思い、もう一度、右の【眼】を凝らす。
「見間違いじゃ、ない?」
レーヴァの胴体に、薄っすらと血管のような『線』が浮かんでいるのだ。
通常、その役割を終えた……つまりは『死』を迎えたモノに、線が浮かぶことはない。
ということは、つまり……
「……生きて、いる?」
呟いたその瞬間、地面に広がっていた血溜まりが、飛び散っていた赤の斑が、少し離れたところにあった彼女の首が、時間を巻き戻すかのように胴体へと回帰を始めた。
数秒も経たぬうちに再生した身体。
精巧な人形のようなその胸元に耳を近づけてみる。
――トクン、トクントクン……
「心臓が……」
原理は分からない。
だが、彼女は確かに、そこに生を持って存在していた。
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