第三十七話 孤独の王
『U・OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』
「!」
じり、じりじり。
そうやって腰を引きずらせて後ずさっていた、奴は吠えた。
咆哮と同時に、さらに全身を赫灼させる。
それはまるで、地獄の窯で燃ゆる炎のようで――
「――――ッッ」
炎を纏った怪物は、俺がそれを視認したそのときにはもう突撃を敢行していた。
おそらく、炎噴射を利用した、今までにないほどの高加速。
一瞬にして距離を詰め、火山岩と化した拳を俺に叩きつける――!
――ドッガァァァアアアッッッ!!!
再び俺は壁に叩きつけられる。
だが――、
「………………」
それは、【魔眼】が覚醒した故のことか。
未来予測の直感を引き出した俺は――無傷だった。
これまでとは比べものにならないその加速に、俺は反応しきったのだった。
前方の拳による殴打に対して二本。
後方の直撃する壁に向かって二本。
そうやって伸ばし、魔力で強化した『毒肢』によって防ぎきったのだった。
結果として、ボロボロになって崩れ落ちる四本の黒ムカデ。
だが、それでいい。
これから辿る決着までの道のりに、それらは不要なものだから。
『…………………UOOO』
立ち上がることができず、獣のように四足歩行となる炎の怪物。
死神の騎士は、その充血した目をギョロリと動かしてこちらに向けてくる。
彼我の距離は五M。
交差する視線。
疎通する意志。
空気がピンと張り詰める。
死神騎士が纏う炎は、おそらくは諸刃の剣だ。
炎噴射による超高加速を叶える代わりに、その肉体を摩耗し続ける。
――だからこそ、次の一合が最後になると直感した。
『U・OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
「――――――――――――――――――シッッ!!」
獣と獣が突貫する。
それは、勝負と勝利に飢えた雄と雄のようで。
空気を破壊しながら振るわれる炎を纏った剛拳。
半分に折れ、されど確かな殺意を持って向かい打つ大剣。
――だが。
雄のうち一人は、『人でなし』だった。
『GIA!?』
――どぽん。
音をたて、地面に吸い込まれる『影』。
己の死を賭けて拳を振るっていた騎士は、しかしその高められた集中力でそれを見逃さなかった。
『GI・AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
死神騎士は咆哮する。
勝負を愚弄する気か、と。
股を通り過ぎる『影』に、死神騎士は殴打を振るった。
同じく『影化』を扱える死神は分かっていた、それには限界があると。
だから、かつて仇敵がそうしたように、それは正しい牽制のはずで……。
――だけど。
『GI・AAA!!?』
その『影』は、消滅した。
突然、何の脈絡もなく。
――同時。
俺は、死神の『背後』で地面から顔を出す。
加護『影化』による無言詠唱+『擬態』。
奴の股下を通り過ぎたのは、『影』に『擬態』した遅効性の【ファイアボール】だった。
俺は音も立てずに跳躍し、天井に張り付いて機を伺う。
死神は俺の姿を必死に探しているようだった。
前、後ろ、右、左。
必然、最後に上を見上げた――その刹那。
「――――――――ッッ」
俺は、天井を蹴り飛ばした。
(『天歩』+『跳躍』+『蹴飛ばし』+『剛力』――!)
俺は複数の加護を同時に活用しながら、死神に強襲を仕掛けた。
奴が上を向いたことでできた、兜と鎧の間にできた、その隙間。
人の姿をしていれば弱点の線が密集するその場所に向けて、突の体制で大剣をかざす。
それはまさしく、熟達した狩人の光矢。
超反応をした死神の炎拳が迫る。
――慣れ親しんだ、スローモーションの世界。
白の世界と化したそこへ、矢尻となった俺は肉体を捻じ込ませる。
掠る拳。
飛び散る血肉。
結果として。
「ッッッ!!」
それは、奴の首に届いた。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!?』
確殺するために狙った、鎧と兜の隙間に大剣が突き刺さる。
七Mの死神に、五Mの大剣。
それは首元に侵入し、鎖骨を砕き、数多の血肉を引き裂いて。
魔石に、届いた。
「――――――――」
動きを停止させ、奴の赤い目がギュルンと上を向く。
膝から崩れ落ちる死神騎士。
大剣を指しながら、死肉と同時に着地する。
どくどくと流れ落ちる血が俺の足に触れる。
俺は、勝利したのだ。
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