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第三十六話 魔眼覚醒


 迫る炎剣。


 俺は地面すれすれに潜り込んで回避する。


 続けて、レーヴァの断面から噴き上がる鮮血を浴びるように跳躍。


 ――どぽん。


 噴き上がる血に姿を隠した瞬間、俺は『影化』で地面に潜り込んだ。


『GYO!?』


 赤黒い血に姿を消してからの『影化』に、必然、死神騎士は俺の姿を見失う。


 俺は奴の背後に飛び出し、奴が捨てた、折れた大剣を拾い上げる。


 元々奴が持っていた、根本から切断した長剣ではない。

 さきほどの一合で奴が使い、真二つに俺が折った、まだ五Mはあるミノタウロスの大剣。


(――この剣身なら……殺れる)


 心の中で確信とともに呟く。


 ついで、音と殺気を知覚したのか、死神騎士は振り向きざまに炎剣を横薙ぎした。


 腹を引き裂かんとするような一閃。


 別に内臓をぶちまけられようが回復すればいいだけの話。


 だが――


(……斬られる義理もない)


 俺は地面を滑るようにそれを躱すと、再び犬のように疾走(はし)った。


 炎剣を振りかぶった奴は、その挙動を止めることができない。


 俺は【眼】を使い、世界を見る。


 ――ぶわぁぁぁっ!


 その醜悪さに、思わず鳥肌が立つ。

 生き物の血管のように無数に広がる線。


 弱点を見る線?


 そんな生易しいものではない。

 それは『死』――そのものだ。


「――――ッッ」


 すれ違いざま。

 俺は【剛力の加護】で膂力をブーストし、大剣を振り回す。

 大剣は吸い込まれるように、奴の足に浮かぶ線へと叩きこまれた。


『GUOOOOOOOOOOO!!!?!?』


 破砕。

 足を覆っていた鎧は剥がれ落ち、内側の腐った肉ごと断たれた。


 噴き上がる血潮。

 ずしん、と音を立てて地に跪く死神騎士。


 奴の右足は、完全にその機能を失った。

 奴の足は、正真正銘の『死』を迎えた。


「――――――――――――――――」


 これで終わらせはしない。

 俺は再び疾走する。


『――GI・AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 奴は咆哮した。

 痩せぎすの男の血走った眼は俺を捉え、大量の涎が宙を舞う。


 地に伏しながら、迫る標的に向かって紅蓮の剣を振りかざす。


 その口端がグニィっと横に伸び、引き裂かれた。


「――――――――――――――――」


 奴はどうやら、勘違いをしているようだ。


 魔術で創り上げたこの剣であれば、確実に標的を殺すことができる、と。


 だが、それは間違いだ。


 まず、俺が炎剣を切断できなかった理由の一つは、〈レーヴァ〉の性能限界だった。


 受け止めるだけでも大剣を斬っていた〈レーヴァ〉。

 それで炎剣を斬れなかったのは、おそらくはそれが『魔術』だから。


 そして、理由のもう一つは、俺に【眼】を使う余裕がなかったから。

 俺が迫る炎剣に、完全に受け身の姿勢であったから。


「――――――――――――――――」


 だが、今は違う。


 俺の目前には……目前に迫る炎剣には、無数の線が走っている――!


「――――――――――――――――ふッッ!!」


 後は、それをなぞるだけ。

 それだけで、ガラスが割れるように炎の剣は破壊された。


『!!!!?!?!?!?』


 奴は声も出せず、驚愕に目を剥く。


「…………」


 死は、この世界の至るところに遍在している。

 この【未来死の魔眼】を使って、それがよく分かった。


 俺は、今までそのことについて理解できていなかったのだ。

 獲物に写る一本の線。

 それをなぞれば殺せる、その程度にしか考えていなかった。


 だが、死は、獲物の命を刈り取ること以外にも存在していた。


 例えば――足。

 断たれた奴の足のように、『立ち上がる』『走る』という機能を失ったモノは、果たして生きていると言えるだろうか。


「……………………」


 それがおそらく、足にとっての『死』。

 ならば魔術にとっての『死』は?

 それはおそらく、その効力を失ったときだ。

 そしてその『死』を、この【眼】ならば知覚できる。


「もし『死』が見えるなら……俺は、魔法だって殺してみせる」


 その意味を理解したのか。

 奴が、腰を地面に擦らせながら後ずさる。


 ――魔法。

 神級魔術とも呼ばれる――人知を超えた最上級の魔術。


 でも、そこに『死』があるなら関係ない。

 俺はそれを殺せる、そんな確信があった。


 ――【未来死の魔眼】。

 これはおそらく、レーヴァが言っていたように未来を予測する魔眼が発展したものだろう。


 俺はきっと――そのモノが寿命以外で持つ『死』の未来を知覚することができる。

 それをなぞることで、その未来を引き寄せることができる。




 それがおそらく、俺の【魔眼】の正体だ。


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