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第三話 頼む


 俺たちは三日ほど、脳内マップを頼りに下層第60層を探索した。

 俺はひたすらに観察に力を入れた。

 何せ、回復術師と雑用係の二人である。

 本格的な戦闘に入った時点で、負けが確定するのだ。


 魔物になるべく近寄らないように立ち回り、魔物に気づかれそうになったらすぐ隠れる。

 木の実や下層では珍しいD級レベルの魔物を狩っては、それを食糧にする。

 そんなことを繰り返して、約三日。


「ようやく辿り着いた……」


「ほ、本当に長かったです……」


「これで本来の目的地とは逆の方向っていうのが軽く絶望的なんだが、まぁ、それはそれとして……この大橋を渡れば、次のフロアだな」


 俺たちの前にあるのは、石でできた巨大な橋だ。

 橋の下にはただひたすらに闇、闇、闇が広がっている。

 当然だが迷宮内部にあるため、手すりなどあるはずもない。

 落ちてしまえば、抵抗する間もなく奈落へ真っ逆さまだろう。

 ……まぁ、この闇が何層まで続いてるかなんて知らないんだけどな。


「う、うぅぅ……」

「ははっ」


 俺はびくびく震える彼女の手をとって、橋を渡り始めた。


「な、なななななるべく慎重に進みみましょう……」


「そんなに怖がらなくても、この広さなら堂々と真ん中歩けばいいだけだろ。なんだ? もしかしてティナは高いところが怖いのか?」


「ばっ! ち、違います! なに勘違いして――――」


 ティナが真っ赤になって怒って――、しかし、その顔は急速に青ざめていった。


「あ、あれ……? う、うそ…………」


 ティナが指さす先、橋の中央。

 その地面が丸く膨らみ赤い光を灯す。


 ――パキパキパキパキッッ


 卵が孵るような音。

 それは迷宮が魔物を産み落とす音。


 そこに現れたのは、【彷徨う(リビングデッド)赤き鎧(レッドアーマー)】だった。


「なるほど、な……」


 奴が現れ、俺は一人納得していた。

 奴がなぜ、死神という異名で呼ばれているのか。


 迷宮を研究する学説の一つに、迷宮を生き物に例えるものがある。

 その学説からすれば、俺たち冒険者はいわば体内に入った異物だ。


 異物を排除する機能を持つものが、魔物だとして、

 死神とも呼ばれる魔物には……SSSランクダンジョンの下層に進むほど実力のある冒険者を殺して回る魔物には、普通の魔物とは違う機能が備わっているのではないか。


 例えば、迷宮内を自由に移動できるような――そんな機能が。

 それも、迷宮内の様子を把握した上で、だ。


 ――強者を殺せ。


 そんな迷宮という名の君主の命令を実行する使者が、この彷徨う騎士なのかもしれない。


「…………」


 単なる妄想として片付けることはできないだろう。

 だって現に奴は、俺たちの進行を予測していたかのように現れたのだから。


 無論、奴から逃げることができた冒険者はいたはずだ。

 それゆえにギルドには奴の情報があるのだから。

 だが――、


「どっちにしろこの距離じゃ、逃げ切れないか……」


 今、俺たちは橋の上にいる。

 目と鼻の先には死神が構えており、

 後ろを見やっても隠れられる場所などない。


 詰みだ。完全に詰みだ。

 だからこそ俺は、ここで覚悟を決めなければならない――!


「ティナ、ごめん……」


「え――――きゃっ!」


 俺はティナの胸倉を掴んで、後ろへと投げ飛ばした。

 筋肉ダルマのエドガーには笑われるだろうが、毎日筋トレしてきた甲斐があったみたいだ。

 そして俺は、懐から転移結晶を取り出し、それを後ろへと投げた。


「モル、ド……?」


「はは……」


 俺は自嘲的な笑みを浮かべ、視線を前に向ける。

 もう後ろは見ない。

 決意が、鈍るだろうから。


「ティナ、それを使って逃げてくれ。そしてできれば、できるだけ早くA級以上の冒険者で討伐隊を組んで、助けに来てもらうとたすかる」


「え……? そ、そんなの絶対……聞き入れてもらえるはずが……」


 そんなの、分かってるよ。


「……頼むよ、俺は討伐隊が来るまでなるべく時間を稼ぐからさ」


 でも、分かるだろ?

 頭の良いティナなら、俺の意図を、組んでくれるだろ?


「頼む」


 俺はもう一度だけそう呟いて、ジャケットの裏からサバイバルナイフを取り出す。


「嫌……嫌ぁぁぁああああああ――――!」


 後ろから聞こえた最愛の人の泣き声を合図に、俺は奴の元へと駆け出した。



【勇者からの嘆願】


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