第二十九話 現状確認 Part2
「二十M……その大きさであのミノだと、相当攻撃力高いよなぁ……。一撃必殺ってされると回復する前に死んじまうだろうし、あとは俺が耐えられるかどうか、耐えるとか以前に攻撃をし続けて討伐できるかってところだろうけど……」
言いながら、俺は懐から冒険者ライセンスを取り出した。
「なに? それ」
「あぁ? あー、まぁ、なんていうか実力を可視化できる便利アイテムみたいなもんだな。……《我が威を示せ》」
唱えると、ライセンスから光の文字が宙に飛び出した。
カチリカチリという音とともに、内容が書き換えられ、書き加えられていく。
「おおおお~っ!」
レーヴァが感嘆の声を上げた。
しばらくすると宙の文字はライセンスの中に吸い込まれるように戻っていった。
新しく刻まれた文字を確認してみる。
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名前:モルド・ベーカー
職業:冒険者
種族:魔人
魔力:S
魔術適性:A
習得魔術:【ファイアボール】
加護:【毒粘液の加護】【跳躍の加護】【剛力の加護】【擬態の加護】【影化の加護】【毒肢の加護】【蹴飛ばしの加護】【吸血の加護】【感知の加護】【天歩の加護】【鉄胃袋の加護】【鉄歯の加護】
魔眼:【■■■の魔眼】
呪い:【聖女の呪い】
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「……なんかいつの間にか人間じゃないことにされてるんだが」
「あはは、モルドがただの人間なんてあり得ないでしょ。モルドって冗談も言えるのね」
からからと笑うレーヴァ。その角へし折ってやろうか。
俺は咳払いをして分析を続けた。
「魔力Sに魔術適性A……なんだこのバケモンは。つーか加護もめちゃくちゃに増えてるし……まぁ、それがどんなもんかってのは感覚的に分かるけど」
ここに来るまでの戦闘で、無意識下で使っていたものもあるようだ。
例えば【感知の加護】。
これはあの蝙蝠型モンスター『ブラッティバット』の力だろう。
自分から発生した音から、大体の魔物の位置を理解することができた。
今や俺が不意打ちを食らうことはそうそうない。
次に【鉄胃袋の加護】と【鉄歯の加護】。
これはあのグールから得た力だろう。
ぶっちゃけ新しく得た加護の中では、一番効果を感じた加護だ。
食後に感じていたあの激痛を『鉄胃袋』は防いでくれたし、『鉄歯』は硬い外皮や外殻を持つ魔物を直接食べることを可能にしてくれた。
今までは……例えば怪物級白ムカデを喰うときなんかは、皮をなんとか剥がなければ食べられなかったからな。
直接食べられるようになり、かつ痛みも感じなくなったので、冒険の効率はかなり上がったと思う。
「にしても、この【■■■の魔眼】って結局なんなんだ……?」
「確か弱点の線が見える、だったかしら? そんな魔眼は知らないけど……でも、あなたの行動予測には目を見張るものがあるわ。【未来視の魔眼】あたりで、その弱点を見る能力はその魔眼が発達して……ってところじゃないかしら」
「【未来視の魔眼】……か」
その名前はしっくりくるようで、何だか痒いところに手が届かないような、そんな気がした。
――そして。
「――――――――――――ぐ」
「どうしたの、頭、痛いの?」
「……いや、気にすんな、大丈夫だ」
魔眼のことについて考えるたび、何故か頭が痛くなる。
「…………」
痛いということは、ロクなものではないのだろう。
これ以上。
このことについて考えるのはやめたほうがよさそうだ。
「ふーん、モルドがそう言うならいいけど……それで、どうなの所感としては。階層主には勝てそうなの?」
頭を押さえる俺を見て、レーヴァは話題を変えることにしたらしい。
「……どうだろうなぁ、相手はなんてったって深層の階層主なわけだし。まぁ、試す価値はあるってところじゃねぇかな」
魔力S。これだけあれば魔力切れを心配する必要はないだろう。
そして階層主には「守護する広間から移動できない」という制約もある。
危なくなったら逃走すればいい。
そして強くなって、また再挑戦すればいいだけのことだ。
「最速最短じゃなきゃ駄目なんだ。だからやるよ、俺は」
俺がそう告げると、レーヴァはまたからからと笑った。
「ふふっ、なんだかモルドらしいわ。あなたのそういうところ、私は好きよ」
……まったく。
何の冗談なんだ、そりゃあ。
俺はため息を吐いて、広間があるとされる場所へと向かった。
階層主。
それは迷宮の五層ごとに、居たり居なかったりする魔物たちのボス的存在だ。
例えば五層、十層には居て、十五層を飛ばして二十層に居たりする。
でも、ここが百層……つまりは深層のゴールってことはないだろう。
散々な地獄を経験してきたが、本能が告げているのだ。
こんなものではないはずだ、と。
だからきっとここは迷宮の九十五層。
最初に落ちたのが九十層以下のどこかで、それから濁流に流されたり白ムカデの突撃にあったりして、ここに辿り着いたというわけだ。
これから先、まだ地獄はあるのだろう。
だが、もし階層主を取り込むことができたなら、得られる力は甚大のはずだ。
だったら、迷う必要なんてないはずだ。
――――――――――――――――――――
俺は剣状態になったレーヴァを握り締め、広間のドアを開けた。
真っ暗な部屋の側面に立つ松明の炎が青く燃え上がり、中を照らす。
そこに――『階層主』はいなかった。
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