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第二十六話 聖者の行進


 振り返った魔物どもは、突然姿を現した俺に呆然としていた。

 奴らの視線が呆然から警戒に変わる――その刹那。

 俺はもう、加速していた。


『ギュッ!?』


 スカルラビットの首領――角の生えた個体が驚愕の声を上げる。

 そう、俺は奴に向けて一直線に駆けていたのだった。


 奴は咄嗟に回し蹴りを食らわせようと体を捻じる――が、


「遅い……遅すぎる」


 ヘルハウンドを数瞬の内に殺した蹴りが、俺に届くことはなかった。


 俺は地面擦れ擦れにまで体を沈ませて、斬り上げ一閃。


 それだけで、奴は真二つの死肉へと成り下がる。


『『『キュキュキュッッッッッ!!!!』』』


 リーダーが殺されたからか一斉に逃げ出すスカルラビットども。

 相変わらず、逃げることだけは得意な奴らだ。


「はは……逃がすわけねぇだろうが」


 俺は『影化』で地面に姿を消すと、奴らの逃走先に躍り出た。

 しかしてその姿は――一匹のスカルラビットだった。


『『『キュッ!?』』』


 そのスカルラビットには一本の立派な角があった。

 丸々と太った体に凛々しさを感じる顔立ち。

 そこには――紛うことなき奴らの首領の姿があった。


 俺が使ったのは『擬態の加護』。

 俺は奴ら自身が持つ異能の力で、奴らを惑わせたのだった。


『『『キュッ、キュッ、キュッ!?』』』


 背後の死体と、目の前の首領を見比べるスカルラビットたち。

 どうやら困惑のご様子。

 そんな彼らに向かって、角を生やしたリーダー兎の格好で俺はこう告げた。


「――獲物を撃ち抜け》」


 瞬間、爆炎が広間を呑み込んだ。

 スカルラビットどもは悲鳴を上げる暇もなかったらしい。

 ごとりごとりと、魔石が地面に落ちる。

 身体は灰になったようだ。


 影化した状態での、同時詠唱。

 影になっているため声は漏れず、物理的行動でもないため『影化』を阻害されない。

 試行錯誤し、繰り返し磨いた――新たな俺の技だった。


「……次」


 俺はギョロリと目を動かし、炎から逃げた三匹のヘルハウンドを睨みつけた。


『『ガルルルルルゥ……』』


 見れば、一匹は炎に焼かれて全身が焼け焦げていた。

 どうやら動けないらしい。

 三匹のうち、動ける二匹が『影化』で突っ込んでくる。

 ああ、それは……


「……都合が良い」


 俺は、『影化』した二匹を完全に無視して黒焦げの一匹の元へと駆けた。


 今度は横薙ぎに一閃。

 眼に映る線をなぞり、首を吹き飛ばす。


『『――グルルゥアアッッ!!』』


 仲間が絶命した瞬間、影から飛び出し迫る二匹の影。

 俺は動かなかった。

 だってもう、終わっていることだったから。


『『グルゥァァアーー!?』』


 ヘルハウンドどもの絶叫が迷宮に轟いた。

 奴らの胴体を分割し、なおも喰らい続けるのは二匹の『黒いムカデ』だった。


「あぁ……これは使い勝手がいいなァ……」


 毒肢の加護。

 これが、俺が怪物級の白ムカデを喰らって新たに得た加護だった。


 毒肢……毒の手足という意味だろうが、見た目は完全にただのムカデだった。

 背中の下、腰のあたりから尻尾のように生えた、四匹のムカデ。

 モゾモゾと動き黒光りするそれらは毒の牙を持ち、手足のように自由に扱える。


 初めて使う加護だったが、その使い方は得た瞬間からどことなく理解することができた。

 俺も……何か感覚のようなものが研ぎ澄まされているのかもしれない。


 腰から生えた黒ムカデで二匹のヘルハウンドと、ついでに宙に浮いていたブラッティバットを噛み砕きながら、俺はグールと向き合った。


『アァ…………』


 呻き声を上げるグール。

 その姿は全身が溶けており、いつぞやのゾンビ巨人を思い出させた。

 今にも溶け落ちそうにだらんと垂れ下がった目。

 知能を全く感じられない振る舞い。


 だが……俺には分かる。

 これまで成り行きを見守っていた奴こそが、この中では最強の魔物であったのだと。


 それはおそらく、伝承通りであれば、死肉を喰らい続けた正真正銘の強化種。


「――――ッ!」


 奴の姿が掻き消えた、そう思った次の瞬間。

 俺は、肩口から噛みつかれていた。


『アァーー!! アァーー!! アァーー!!』


 歯が食い込み、軽々と魔力で強化したはずの体を咀嚼する。

 俺はニヤリと口角を上げ、哄笑した。


「ははははははっ! そうかそうか、俺を喰らうか! グールゥッッ!!」


 俺は〈レーヴァ〉を奴の頬に突き刺し、首筋に歯を突き立てた。

 腰から四匹の黒ムカデが伸びる。

 ムカデは奴の両脇腹、下肢にその毒牙で噛り付き、腐った肉と骨を食い千切る。


 俺は奴を、喰らう、喰らう、喰らう、食い破る。貪り喰らう。




「だったらよォッッ! 早喰い競争してみようぜぇぇぇぇぇっっ!!」




 ドブのような血が、奴の腐った体から滴り落ちていった。

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