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第二十五話 殺戮宣言


「すごい数だな……骨兎が十匹に、黒犬が五匹……見たことないやつもいるな、ゾンビに……あれは蝙蝠か?」


「なによそれ」


「なにって、あいつらのことだけど」


「ふーん、地上ではそんな風に呼ぶの?」


「いや知らねぇよ。深層に行ったやつなんていねぇし」


「へぇ……つまりはあなたの命名なわけね」


 彼女は物知り顔で……って、剣状態なんだから顔なんてないんだけど、とにかくそんなムカつく顔をしたような雰囲気で、言葉を続けた。


「右からスカルラビット、ヘルハウンド、グールに……ブラッディバットね」


「なんだそれ」


「あいつらの名前よ、言っておくけど正式名称の、ね」


 自慢するように剣が鞘の中でカチャカチャと跳ねる。

 おいうるせぇぞバカ位置バレるだろうが。


「へぇ……お前は何でも知ってるんだな」


「何でもは知らないわよ。知ってることだけ……っていうか、ホントに物知りキャラになるつもりはないわ。確かに魔物の名前ぐらいなら知ってるけど、この迷宮で詳しいのはここのフロアだけだし」


「へぇ~…………」


「何よその目は」


「いや別に……っと、動きがあったみてぇだな」


 牽制し合っていた魔物たちの我慢が限界を迎えたようだった。


『『ガルルゥアアッ!!』』


 最初に飛び出したのは二匹の黒犬(ヘルハウンドだったか?)だった。


 ヘルハウンドたちはその固有の異能『影化』を用いて骨兎――スカルラビットに迫る。


『『『キュウゥゥゥ……』』』


 警戒するスカルラビットども。

 そいつらを片手で制し、一歩前に出てくる個体があった。


『ギュッ!』


 それは、他の兎どもとは明らかに容姿が異なっていた。

 額についた、螺旋状の一角のツノ。

 太々しい面構えに、丸々とした体。

 脂肪に覆われているように見えて、筋肉もよく発達しているようにみえる。


 リーダー格だと判断したのだろう。そこに『影化』したヘルハウンドどもが襲いかかる。


「8,9……10」


 俺はカウントを行っていた。


 影と化し、ある種『無敵化』できる『影化』だが、これには制限がある。


 一つは、攻撃する、水を飲むなどの物理的な行動をする場合には影から飛び出さなければならないということ。


 そして、あと二つ。


『『――グルルゥアアッッ!!』』


 影になる時間は十秒が限界だということ。

 そして、影になっている間は息を止める必要があることだ。


 これは人間の体を持つ俺だからなのかと思っていたが、奴らが飛び出したところをみると、どうやら条件は同じらしい。


 影から飛び出し、一匹の兎に襲い掛かるヘルハウンド。

 しかし、次の瞬間――首領格のスカルラビットは文字通り『跳ねた』。


『ギュアアッ!!』


 空中で一回転したソイツは、飛び込んできた一匹に回し蹴りを炸裂させる。


 ゴパッッ!!


 骨までまとめて砕けたような音が響き、ヘルハウンドは壁に叩きつけられ絶命した。


 それが一瞬の出来事。


 回し蹴りで方向転換したスカルラビットは、地面を蹴り飛ばす。

 勢いを止められないもう一匹に向かってその大きな一角のツノを突き刺した。


『グルゥッ!?』


 胸を突き破られるヘルハウンド。

 スカルラビットの王はツノに刺さった魔石と心臓を器用に取り外すと、バキッグチグチと咀嚼をし始めた。


 そのスカルラビットを警戒するように取り囲む他の魔物ども。


「どういうことだ?」


 俺は思わず疑問を口にしていた。


 骨兎と言えば、かのゾンビ巨人にやられていたモンスターだ。

 そしてその巨人は黒犬どもにやられていたはず……。


「強化種ね」


「強化種?」


「ええ、他の魔物の血肉と魔石を大量に喰らって強化された種のことよ。あのスカルラビット……相当取り込んでるみたいね」


 なるほど、と俺は心の中で一人納得する。


 そして、奈落の底で群がってきた白ムカデどもを思い出していた。


 地上に棲むムカデと変わらぬ大きさの個体。

 成人した男の腕と同じくらいの大きさの個体。

 そして、十Mは優に超える、階層間を移動する怪物級の個体……。


 あの怪物も、おそらくはあの奈落の底に居た一匹のムカデなのだろう。

 同種同士で喰らい合い、巣から出た後は他の魔物を喰らい続け、あの姿を手に入れたのだ。


 それは……なんというか、俺の中で一つの言葉を思い出させた。


「――蟲毒、か」


 それは大陸東部の呪術師が用いるとされる儀式の一つ。

 一つの壺の中に大量の毒虫や毒性を持つ動物を入れ、最後の一匹になるまで殺し合わせる。

 そして残った最強の一匹を殺傷に用いる、危険な呪術だ。


 となれば、この迷宮は一つの巨大な壺とも言えるかもしれない。

 その中で同種すら喰らい己を強化し続ける奴らは、さながら壺の中の毒虫といったところか。


「いや……」


 血肉を喰らい、魔石を喰らい、己の体を強化し続ける……

 今や俺も、そんな毒虫の一匹なのだ。


「あなた……何、笑ってるの?」


「………………」


「……まぁいいわ。どうするの? 落ち着くのを待つって手もあると思うけど……」


 そんな風に零すレーヴァ。

 あの数……そして強化種の存在を考えれば妥当な提案だろう。


 まったくもって常識的な判断だ――冗談じゃない。


「殺してやる…………」


「……え?」


 頬が緩むのを、どうにも止められない。

 俺は彼女――〈レーヴァ〉を引き抜き、魔物どもの前へと歩みを進めた。


 ザッッ!


 岩陰から姿を現した俺に、魔物どもの視線が集まる。


 関係ない。


 そうだ、この身に降りかかる理不尽は――、



「全部殺して……喰らってやる」


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