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第二十二話 白銀の輝き

 扉の中に入ってまず目についたのは、無数の星の刻印だった。


「なんだ、これ……」


『⛥』『⛥』『⛥』

『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』

『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』

『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』『⛥』――、


 病的なまでに、壁や地面一体に書き殴るように刻まれた大小様々な五芒星に、背筋がゾクリと震えあがるような感覚を覚える。


 まるでこの部屋自体が何らかの呪いを受けているのではないかと思うような様相だ。


「…………」


 だが、これまで深層で経験したいくつもの常識外の経験が、俺に落ち着きを取り戻させた。

 すぅ、と深呼吸をし、恐怖心などという無駄な感情を削ぎ落す。


(やるべきことはこの部屋の調査と、武器になりそうなものの探索。調査、探索、調査、探索、調査、探索……)


 そう心の中で何度も呟き、落ち着きを取り戻した俺は改めて周囲を確認した。


 部屋の中は、大仰な扉の割にはとてもフロアボスが構えるような広間(ルーム)ではなかった。

 狭く、しかして天井は遥かに高く、見通せない。

 まるで塔の中に入り込んだような感じだ。


「おぉ……」


 その遥か高い場所から一筋の光が差している。

 よくよく見れば、大きな魔石が発光しているようだった。

 部屋に降り注ぐ光は白く、淡く、どこか神聖なものを感じさせる。

 もっとも、その神聖な雰囲気も部屋の中を縦横無尽に埋め尽くす五芒星のせいで台無しなものとなっていたが――、


「――剣?」


 そう、それは一振りの剣だった。

 迷宮の壁と同じような、大理石と氷を混ぜたような材質の台座に横たわる剣。

 それは部屋の中に降り注ぐ光を一身に受け、白銀に輝いている。


「――。綺麗だ」


 ポーターとはいえ、俺だって男の子だ。今まで迷宮街の武器屋を巡回した回数は数知れず、鍛冶師が新作を出したと聞けばすぐに見に行くほどだった。


 しかし、これほどまでに美しいと思える武器に出会ったのは、これが初めてである。


 柄、鍔、ブレード、その全てが穢れを許さぬ雪原のような銀。

 光に照らされたそれは、神々しくも白く輝いていた。


 部屋の様相から呪われた剣かとも思ったが、装飾だけでなくこれが凄まじい業物であることは感覚で理解できた。


(呪いを受けるなら一つや二つも変わんないか)


 身体に害をなすような呪いであれば【ヒーリング】で無効化できる。今は少しでも使える武器が欲しい――そう思った俺は横に置かれていた鞘に剣を修め、それを腰のベルトに差す。


「……ん?」


 ふと台座に目をやると、さっきまで剣の美しさに見惚れていたから気付かなかったのか、そこには魔法陣が描かれていた。


「なんの魔法だ?」


 俺は魔術的な知識は少なく、てんで分からない。

 文字のようなものも書かれているが、明らかに見知らぬものだ。


「レイラあたりがいればなー……」


 ふと思い出すのはかつてのパーティーで妹のように慕ってくれた水色の髪の女の子。

 ティナの話によると共に抜け出すはずだったそうだ。

 コミュニケーションに難があり、人に武器を向けられるのを怖がる天才錬金術師。


 今は、どうしているだろうか。


「……いや、今はそんなことよりも……」


 再び、魔法陣に注目する。


 陣と超長文詠唱によって『魔法』を発動させていたのは昔の話。

 魔法というのは神級魔術とも呼ばれる、魔術の上位存在だ。


 例えばそれは天変地異を抑えるために使われたり、遥か広範囲に雨を降らせたり、運命を読んで未来予測をしたり、戦争している相手の国に隕石を落としたり、などである。


 それらを発動させるために扱っていた技術が学問となり、簡略化され、今の魔術の形態になったというわけである。


 現代でもその技術が応用されているのは――迷宮をクリアした後に出現する転移魔法陣や、転移結晶の内側に描かれているその陣くらいだろう。


 今の時代、陣を構築できる存在は――それが既存物の真似事であっても――非常に限られているのだ。


 とはいえ、魔法が使われていないかと言われると、そうではない。

 いや、今は大陸中の大体がどこも平和で戦争など起こっていないので使われることはほとんどないが。


 例えば、大陸を守護する『勇者』と呼ばれる存在の、その中でも上位の者は、現代の魔術を使うような感覚で魔法を使うことができるという噂だ。


「…………」


 まぁ、今、考えることでもない。


 武器は手に入った。

 ここにはもう用はない。

 そう思って部屋から立ち去ろうとした、そのときであった。


『ギィァァァァァアアアアアッ!!』


 金切り音が響き、部屋を震わせた。


「な――――っ」


 地面を突き破って現れたのは、かの怪物白ムカデだった。


「魔力を探知して来やがったのか!? それとも……っ」


 俺の居場所を理解していた上で、逃げ場のないここに誘いこまれた?

 だとしたらなんて俺は滑稽なんだ!


『ギィァァァァァアアアアアッ!!』


 溶液を撒き散らしながら突っ込んでくる白ムカデ。

 逃げ場はない。ならーー!


「ぐーーっ!」


 瞳に映る線は薄く、されど確かに白ムカデの体を割るように、縦に一本走っている。

 俺は鞘から剣を抜き、咄嗟にその弱点目掛けて振り抜いた。


『――へぇ、あなた、面白い太剣筋してるわね』


「え?」


 女の声が聞こえたと思った、その次の瞬間――


 ――周囲には、血の雨が降り注いでいた。


「……は?」


 呆然として、後ろを振り返る。

 そこには、体を真っ二つに両断された白ムカデの死体があった。

 体の中心で分断された肉塊は、もう片方を求めてビクンッ、ビクンッと跳ねている。


「信じられねぇ……」


 あの強靭な外殻をたった一振りで引き裂いたというのか。

 それはあまりにも、武器の性能だと切り捨てるには不可思議な光景で。


 そう……だから。


 例えば刀身からバチバチと青い稲妻が走ったり。

 例えば煙が突然立ち込めて。

 剣はいつの間にか消えていて。


 短い銀髪をゆらす美少女と見つめ合うようなことがあっても、なんらおかしくはないように思えた。


「…………」


「…………」


 思わず硬直する俺に、彼女は妖艶な瞳で見つめてくる。

 その瞳は、高級なウイスキーの滴を落としたような琥珀。


 その女は、何というか、世界で二番目くらいには美しいと思える容姿をしていた。


 男を惑わす二つの大きな膨らみ。

 透き通るほどに白い肌。

 肌の色とは正反対の、喪服のような漆黒のドレス。

 整った鼻梁(びりょう)、少し湿った潤いのある唇。

 そして、頭に二つついた、羊の角のような渦巻き状の黒いソレ。

 その美しさはどこか、人間離れしていて……。


「おなか……空いた…………」


「あ?」


 だから、不意打ちにそんな風に呟いてパタリと倒れる彼女を、やはり俺は唖然と眺めることしかできなかった。


明日は8話ぐらい投稿します。

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