第十九話 現状確認
「さてさて、これでどうなっているのやら……」
ジャケットの裏側から冒険者ライセンスを取り出し、魔力をほんの少し注ぐ。
「《我が威を示せ》」
これは正確には魔術ではないが、詠唱を唱えることで確かに不可思議は現出した。
空中に光の筆跡が走る。
魔力の――つまりは魂の情報から己に宿る力の総量を文字として浮かび上がらせるのだ。
文字は数ヵ所が書き換えられ、付け加えられて、ライセンスに吸い込まれるように消失する。
新たに刻まれているであろう自分に関する情報を確認するため、俺はドカッとその場に座りこんでライセンスを覗き込んだ。
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名前:モルド・ベーカー
職業:冒険者
種族:人族?
魔力:A
魔術適性:D
習得魔術:【ファイアボール】
加護:【毒粘液の加護】【跳躍の加護】【剛力の加護】【擬態の加護】【影化の加護】
魔眼:【■■■の魔眼】
呪い:【聖女の呪い】
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「職業が荷物持ちから冒険者に変わったのは前確認したからいいとして……なんだ『人族?』って。?じゃねえよそこは自信持てよ」
呟きながら、強さに直結するその下の部分を確認する。
「お、おぉ……魔力のランクがまた上がってる……とんでもねぇなこりゃ」
魔力とは、戦闘能力を示す指標となるものだ。
魔力があれば魔術の発動はもちろん、魔力を活用することで身体能力の向上させることができるからである。
魔術師は魔力を使って魔術を行使し、剣士は魔力を纏った肉体と剣によって魔物を断つのだ。
魔力のランクが一つ違えば、実力としては次元が一つ違う、だなんて言われている。
……まぁ、体の構造を熟知した魔力Bの戦士がランクAの魔術師に必ず敗北するかと言われれば、そうでもないのだが。
「魔術適性も一つランクが上がってる……結構【ファイアボール】使ってるからかな。んで加護は……またいくつか増えてるな」
魔物を喰らえば魔力だけでなくその加護まで得ることができる、どうやらこれは確定のようだ。
新しく追記されたものを確認する。
今回得た加護は【擬態の加護】と【影化の加護】というものらしい。
おそらくは骨兎と黒犬から得た加護なのだろうが、以前倒したときには得られなかった。
同じ種の魔物であっても、得られる加護は個体によって違うということだろうか。
それとも、ある一定の数喰らうことによって得られる加護もあるということだろうか。
「そもそも加護って、まだまだ謎が多いんだよなぁ……」
創世の女神テレシアが祝福した選ばれた人間にのみ与えられる才能、能力こそが加護とされていたはずだ。
だのに、なぜ闇から生まれ人に害をなすと言われ、神話に類する英雄譚では敵となるはずの魔物の異能の名が「加護」なのか。
それはつまり、魔物を産み出しているのも…………
「……って、今の俺がそんなこと考えても仕方ないか。そんなことより……」
俺はさらに、その下の表記へと目を向ける。
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魔眼:【■■■の魔眼】
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「うーん、魔眼ねぇ……」
――魔眼。
それは、貴族や優秀な魔術師の家系などで稀に遺伝される、【加護】とはまた異なる、基本的には先天的な力の総称だ。
魔術ともまた異なり、魔力を眼球に流すだけで効果を発揮する。
それは例えば、「見た対象を石化させる」だったり、「三秒後の未来が分かる」だったり、「魔力の質や量を色で正確に判断できる」だったり……。
常識の埒外のものから、ちょっと便利そうなものまで豊富な種類があるもの。
それが魔眼だ。
「でもなぁ……」
魔眼は、基本的には先天的なもの。
幼少の頃からそれを使い慣れることで、その扱いと制御を学ぶのである。
例えば移植して後天的に獲得するなどということもあるが……相当な高値になる上に、自分の一部とまでなっている「そこに当たり前にある力」を売りに出す者はそうそういない。
そして俺にも、もちろんそんな記憶は――
「……ない、よな?」
こう表記があると自信がなくなるが、実際これまではライセンスを何度見返してもそんなものは刻まれていなかったのだ。だいたい、【魔眼】なんて持っていたらポーターなんてしていない。
心当たりがあるとすれば―ー、
「たぶん、俺が見てるあの『線』のことなんだろうけど……」
弱点を看破する線。
サバイバルナイフなので一撃必殺とはならないが、この線のおかげでこれまでなんとか戦えてきた。
だが、こうして『魔眼』と表記されても、この文字化けのような状態ではどんなものなのか判別することはできそうにない。
前例がない、というのを踏まえてもう少し考えてみる。
例えば……これまでパーティーの後方から戦況を分析することで身に着いた未来予測に近い観察力。
敵が次にどう動くのかの瞬時の判断、動きの妙から弱点を導き出すなどを可能にしていたそれが、深層という特殊な空間で魔物を喰い続けることによって魔眼に昇華した、とか?
「うーん……考えても仕方ないことは考えても仕方ねぇな……よしっ!」
俺は力を入れて、立ち上がった。
これ以上は考えても仕方ないだろう。
ポーターとして足手まといにならぬようにと本を読み漁った俺であったが、学者ではないのだ。
必要なことは、ここから抜け出して調べればいい。
そう決意し、確かな足取りで、道の先――未知の先へと歩を進める。
目指すのはさらに下のフロア。
当初は上を目指していた。この迷宮から脱出するための方法を模索していたのだ。
けれど、知ってしまったから。
喰らえば強くなるという道理を、知ってしまったから。
だったら、願いを叶える近道は逃げ道なんかじゃない。
前人未踏の踏破しか、あり得ない。
最後の表記、【聖女の呪い】という文字が俺を奮い立たせる。
「……待ってろよ、ティナ」
俺は胸に手を当て、さらなる地獄を求めて彷徨い歩いた。
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