第十八話 お食事タイム
調理なんてしている暇もなければ、そもそもそれをするに足りる器具もない。
炎系初級魔術【ファイアボール】を活用すれば肉を炙ることもできるかもしれないが、そのための魔力消費がもったいないし、そもそも低すぎる魔術適性を持つこの俺にそんな繊細な真似はできない。
「…………」
というわけで、何度目になるかも分からない生食タイムのお時間だ。
俺はサバイバルナイフで毛皮を剥ぎ取ると、まだ生温かいピンク色の生肉にかぶりつく。
泥のように血が滴り、その血をも飲み込む勢いで貪っていく。
さて、そのお味は――?
「まっっっっっず!」
当然である。
というか数日前まで味にはちょっと煩いほうだったのだ。
それが今や魔物の生食である。最悪だ。
魔力を少しでも取り込むため血抜きすらしていない。これが地獄か。
心の中で悪態を吐きながら、それでも必要なので食事を進めていく。
――しかして、本当の地獄はこれからである。
「ぐっ、ガァァァァアアアアアアアッッ!!」
殺戮した魔物十匹をすべて平らげた後、腹の底が激痛に襲われた。
その痛みはやがて全身に波及し、肉体の崩壊と死の未来を幻視する。
「がぁっ!? おぉ、ぇ! あ、ぎ、ががががががっっ!!」
身体が脈打つたびに、猫のように飛び上がる。
痛みを誤魔化すために頭を地面に打ち付け、なんとか正気を保とうとする。
『《安らぎ癒せ》! 《安らぎ癒せ》! 《安らぎ癒せ》!』
心の中で、何度もそう絶叫する。
彼女の呪いで治癒を敢行するも、そのたびに崩壊が巻き起こる。
何度も何度も、崩壊と治癒を繰り返す。
――魔物の肉食。
それは本来、人族の間では禁忌とされていることだ。
魔物は普通の動物と異なり、魔石と呼ばれる形ある魔力生成器官を持ち、破格的な運動性能や固有の異能まで得ている者もいる。
そんな高濃度の魔力を取り込もうとすれば、体が拒絶するのは必至である。
「はぁっ、はぁっ、はぁ…………っ!」
何とか崩壊を抑え込み、地に伏しながら息を吐く。
体中から滝のように発汗し、口からは泡が噴き出ていた。
次第に心拍が落ち着いてくる。
俺は手をグーパーして、体に正常が戻ったことを知覚した。
そして……ある種の全能感のようなものさえ得ていることも。
魔力の巡りが違う。
見下ろした範囲だけでも、体格さえ変質していることが分かる。
喰う前の自分とは、明らかに異なる存在に進化したことを自覚する。
「脱皮ってこんな感覚なのかな……」
あの白ムカデどもを喰らってから、俺はこういったことを何度も繰り返してきた。
理由は二つ。
どれだけ体に悪影響があろうとも、ティナの呪いがある限り再生できるから。
―ーそして、喰らえば喰らうだけ、圧倒的に力を得ることができるから。
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