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第一話 追放


「荷物持ちモルド・ベーカー、本日をもってお前をこのパーティーから追放する」


「……えっ?」


 起き抜けに突然言われ、俺は思わず聞き返す。


「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。……というか何なんですかこの縄は」


 俺の両手、両足は縄でしっかりと締め付けられていた。

 見渡せば景色はほの暗い。洞窟だ。

 そうだ。確か、昨日、俺は……

 俺が所属するパーティー【革命の風】の仲間たちとともに、

 SSSランクダンジョン、タオラル大迷宮の下層域に初めてアタックしたはずで……?


「念のための拘束だよ、君が万が一にも逃げのびないようにするための……ね」


 そう言うと、リーダーであり、勇者に近い実力を持つといわれるシャリオは、金の髪をつまみながら溜息をついた。


「端的に言うとね、君には死んで欲しいんだ」


「……は?」


「僕の言う事がわからないかい?」


「そんなのわかるわけ――――がぁっ!?」


 シャリオは俺の腹を蹴飛ばして、冷ややかな笑みを浮かべる。


「あはは、口答えするなよ」


「ぐ……っ」


 シャリオは俺の腹をぐりぐりと踏みつけながら、言葉を続ける。


「追放ってさ……いや、解雇って正式な手続きを踏もうとすると結構めんどくさいんだ。法律とか不文律とか金とかがね。だから死んで欲しいんだ、この迷宮の奥底でね。ここなら僕たちが手を出さなければ証拠は出ないし、魔物の胃袋に入れば死体が出て来ることも稀だ」


「そんな……」


 確かに、俺には『才能』と呼べるものはない。

 十五歳になった成人の日、選ばれし者にあたえられると言われる【加護】という力。

 冒険者で活躍するような者は、その中でも有力な加護を得ていることがほとんどだ。


 でも……俺にはそんな才能はなかった。

 加えて、剣術も魔術も、素養なんてものはさらさらなかった。


 けど、その代わりに、荷物持ちとしてできるだけのことはしてきたつもりだ。

 魔物の索敵や位置関係、戦術などの指示出しはもちろん。

 料理や掃除などの衛生管理、書類整理などの雑用もこなしてきた。


 もしかしたら、俺の実力は足りていなかったのかもしれない。

 それならパーティーを追放されたり、解雇されたりするのは分かる。理解できる。仕方ないと割り切ることもできる。

 けど……


「……全員、納得してのことなのか? そんな、俺を、殺す、なんてこと……」


 俺が問うと、横から長耳の魔女と恐れられる魔術師のクロエが、シャリオの腕をとって俺をゴミでも見るような目でみて言った。


「正直、視線がいやらしくて毎日最悪な気分だったのよねえアナタといると。弱いくせに口ばっかりは煩くて耳障りだったし……」


 続けて、筋骨隆々、前衛で盾役を務める大男のエドガーが頷きながら答える。


「……うむ、筋力も魔力もない貧弱者は消えるのが一番だからなっ! 豪快に死んでくれ!」


 ワッハッハッと笑うエドガーは諦め、俺はその隣に並ぶ二人に目を向けた。


「レイラ、お前もなのか?」


「…………ッ」


 レイラ・エイバース。

 耳にかかるくらいの空色の髪と、同じ色で綺麗に輝く瞳が特徴の少女。

 その正体は、かのランドルド勇者大学に10歳という飛び級で入学し、もう学ぶことはないと超スピードで中退した天才錬金術師。


 無口だから勘違いされることもあるけど、とても優しい女の子だ。

 しかし、妹のように可愛がっていたその彼女でさえ、

 勢いよく顔を背け唇を噛んで視線さえくれなかった。


 ――そんなに俺って嫌われてたんだ……。


 軽く絶望して、俺は縋るように最後の一人に目を向ける。


「ティナ……」


「…………………………」


 ティナ・フルール。

 俺の幼馴染にして、どんな傷も一瞬で治してしまう【聖女の加護】を持つ回復術師。

 純金をそのまま溶かしたような、どこか高貴さや神聖さを思わせるロングヘアをたなびかせて、彼女は俺の前に立った。

 深い蒼色の瞳が、じっと俺を見つめてくる。


「……ごくり」


 思わず喉が鳴る。

 俺は、彼女を支えるためにともに故郷を出た。

 彼女の「最高の冒険者になって、故郷や家族に楽をさせてあげたい」という願いを叶えるために。


 俺には才ある者が与えられるという女神の加護なんてものはない。

 剣術も魔術もまったくといって上達しなかったし、戦闘の全てに必須とされる保有魔力も少ない。


 ――だが、それでも。

 彼女が最高の冒険者と呼ばれるようになるまで。

 彼女が幸せになるまでは、手伝いたいと思ったのだ。


「…………………………」


 しかし、彼女は――、


「私も賛成に決まっています。正直、私、あなたのことがずっと嫌いでしたから」


 他のメンバーと同じように、ゴミを見るような目で俺をみて、そう言い放つのだった。


「うそ……うそ、だ、そんなの……」


 俺は……もうどうすればいいのか分からなかった。


 俺、モルド・ベーカーには家族がいない。

 幼馴染のティナに会う前、別の村で流行病によって死んだからだ。


 そして、ティナの住む村に引っ越した後。

 そんな隣の村で起きた惨事が噂になっている中、ティナだけが俺の友達になってくれた。


 精神的ショックで前後の記憶も曖昧だった俺に、幼かった頃のティナだけが手を差し伸べてくれたのだった。

 ティナが俺のことを救いあげてくれたから、ドス黒い目で世界を見ることもなかった。

 ティナのおかげで故郷に友人もできたし、たとえば彼女の両親など、信頼できる人とも出会えた。

 ティナと二人で村を出て、様々な出会いや美しい光景も目にすることができた。


 ティナが、俺の世界を変えてくれたのだ。


 だから、俺は彼女のために生きると誓った。

 才なんてないちっぽけな俺の人生ぐらいなら、彼女のために捧げられると思ったのだ。


 彼女が願いを叶えるために。

 彼女が幸せを掴み取るために。


 彼女がそれを拒否するならば、それが実はただのストーカーまがいの気持ち悪い迷惑行為だったというのならば、もはや俺に生きる理由もない……。


「がははっ、この歳になって泣くとは、まさに貧弱ッ!」


「ねぇシャリオ、ティナの言う通りこんな泣き虫で気持ち悪い目をした男、ここに置いてさっさと帰りましょうよ。私、お腹が空いたわ」


「あはは、それもそうだね」


「…………」


 放心する俺を囲んで、嘲笑の声が響く。

 顔を上げると、目の前には下卑た笑みを浮かべるシャリオが俺の服の中をまさぐっていた。


「貴重な貴重な転移結晶と……金と鉱石と魔物からドロップした素材は……うん、このくらいのようだね。他は金にもならないようなものしかないし、じゃあ、これで――――」


「ぐ……っ、《炎弾よ・我が意のままに・獲物を――」


「《痺れろ》」


「ぐぁああああああ――――ッ!」


 俺の詠唱が完了するよりも早くシャリオの詠唱が完了し、俺の腹を雷が貫いた。

 雷系初級魔術・【エレクトリック】だ。


「まったく、詠唱短縮もできないくせに、この選ばれた僕に歯向かおうと思ったのかい? それは傲慢というものだよ、無能君」


「ぐ……ぁ……」


「ふむ……ふとした拍子に縄がほどけてしまっても面倒だ。エドガー」


「おう、なんだ?」


「動けなくなるくらいまで、やれ」


「ワッハッハ、了解したァッ!」


 筋骨隆々の男、エドガーが腕をポキポキ鳴らして近づいてくる。


「天国に連れて行ってやるぜぇ? モルドォッ!!」












 ――――――――――――――――――――



「ま、そんなわけだからさ。僕たちはもう転移結晶で帰るよ……って、聞こえてないかな?」


「ワハハハハハ! あれだけ殴りゃあもう気絶してんだろ!」


「ねぇねぇ帰ったら私の相手をしなさいよね? 今日は絶対に私たちパーティーの記念日になるだろうから♡」


「あはは、仕方がないなぁクロエは……」


 殴られ続けて顔が腫れているからか見えないが、奴らの声が聞こえてくる。

 俺はその方向を睨み続けた。


「ティナ、レイラ、何をしてる? 早く転移結晶を出しなよ」


「……うん、わかった……」


 虹色の結晶を取り出すレイラ。

 しかし――、


「ん? どうしたんだいティナ」


「……私はもう少しここに残ります。数年彼と過ごしただけの皆さんと違って、私には十年分近くの恨みがこの人にはありますから」


「あはは、怖~♪」


「ガハハハハハッ!」


「ふふっ、そういうことなら後で待ち合わせしよう。いつものところで食事をとるから、そこで集合で」


「ギルド受付前のレストランですね、わかりました。それではまた後で」


 ティナがそう告げると、他の三人は結晶を天井に向けて掲げた。


「「「転移、宿屋アルバ前」」」


 光に包まれた彼らは一瞬にして姿を消した。

 そしてその後、レイラが小声で転移を唱え、姿を消した。


「さて……」


 ティナが近づいてくる。

 どうせもう、俺は動くことができない。

 というか、彼女が俺に危害を加えたいというのなら甘んじて受け入れよう。

 そう思ったのだが、あろうことかティナは俺の拘束を解き始めた。


「あ、じっとしててくださいね、モルド――――《安らぎ癒せ》」


 ティナの詠唱が完了し、俺の体を眩い緑色の光の粒が包んだ。

 すると、みるみるうちに腫れや傷が癒えていく……。

 回復系初級魔術・【ヒーリング】。

 ちょっとした傷を治すだけのはずの魔術だが、【聖女の加護】を持つ彼女にかかればどんな怪我も治す万能の魔術に早変わりというわけだ。

 いや、今はそんなことよりも……。


「ティナ、これはどういう……?」


「……えっと、もしかして私が本当にモルドのこと嫌ってたって、そう思ってます?」


「え、だって実際……」


「はぁ……あんなの嘘に決まってるじゃないですか」


「嘘!?」


 あのゴミを見るような目が!?


 俺が絶句していると、ティナは俺の肩を担いですくっと立ち上がった。


「そんなことより逃げましょう。このタオラル大迷宮と【革命の風】から」


 そして俺は、衝撃の真実を彼女から伝えられるのだった。







 シャリオ・シュバリエ

 職業:A級聖剣士

 種族:人族

 魔力:A

 魔術適性:A

 習得魔術:雷系魔術(中級まで)・回復魔術(初級)

 加護:【聖剣の加護】【疾風の加護】


 エドガー

 職業:A級戦士

 種族:人族

 魔力:B

 魔術適性:E

 習得魔術:なし

 加護:【鋼鉄の加護】


 クロエ

 職業:A級魔術師

 種族:エルフ族

 魔力:A

 魔術適性:A

 習得魔術:主要五属性魔術(中級まで)

 加護:【魔導の加護】


 レイラ・エイバース

 職業:A級錬金術師

 種族:人族

 魔力:A

 魔術適性:S

 習得魔術:錬成魔術(上級まで)

 加護:【錬成の加護】


 ティナ・フルール

 職業:A級回復術師

 種族:人族

 魔力:A

 魔術適性:S

 習得魔術:回復魔術(上級まで)

 加護:【聖女の加護】


 モルド・ベーカー

 職業:荷物持ち(ポーター)

 種族:人族

 魔力:D

 魔術適性:E

 習得魔術:【ファイアボール】

 加護:なし



本日はあと12話投稿します。

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【勇者からの嘆願】


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