表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

乙女の尊厳の行方は

 『ブゥン』という音と共に、景色が霧散していく。

 そこは街中などではなく、レヴィエムの大工房内の大広間だった。


 群衆も、怪人も、黒タイツも、そして赤子もいない。

 いるのは、大小様々なオートマタのみ。


 最終試練は、遺跡の機能とオートマタによる、『仮想神代』で行われていたのだ。


 遺跡が姿を取り戻し、アリアが鎖から解放される。


「あぁぁぁぅっ」


――バシャンッ!


 支えを失ったアリアは、自らが作り上げた、大きな金色の水溜まりの中に崩れ落ちた。

 シャイニーティアの白いニーハイソックスが、太もも部分まで黄色く染まっていく。


(出ちゃった……っ! 全部……っ……出ちゃった……っ!)


 本物ではない仮装の世界、住民も敵も、皆意志を持たぬオートマタ。

 本当は、誰にも見られてはいない。


(我慢……っ……できなかった……っっ!!)


 だがそれでも、『お漏らし』という結果は、十三歳の少女の心を容赦なく抉った。

 そもそも、アリアがこれで安堵できるような娘なら、最初の試練が始まる前に、部屋の隅で済ませている。


「うっ……ぐずっ……えぐっ……ああぁぁぁっ……ひぐっ……うあぁぁぁっ……」

『最終試練を突破しました』


 さめざめと泣くアリアに、天から無機質な声が届く。


 突破だ。

 あの何のいいところもなく、ただ尿意に悶え、挙句の果てに惨めに漏らしただけのアリアは、最後の試練を突破していた。


「ずっ……何で……あっ」


 最終試練のテーマは『献身』。

 赤ん坊を人質に取られ、動きを止めたことが『献身』と見られたのだろうか。


『エクエス・レヴィエムのプログラムの結果、全ての試験は突破と判定』


 床の一部が開き、そこから何かの台座が現れる。

 台座の上には、羽の装飾がついたハートの首飾りが置かれていた。


『条件を満たしました。『聖涙布シャイニーティア』の所有権を挑戦者に譲渡。本登録を開始します』


 首飾りは小さな光の球に姿を変え、呆然とへたり込むアリアの下腹――ここまで酷使し続けた膀胱に吸い込まれていく。


「んっ、んん……っ」


 痛みはないが、むず痒い感覚に、アリアの口から声が漏れ出る。


 そして――





――ドクンッ!





 最後に一度、強く鳴動した。




「ああぁっっ!!?」





 ジョロロロロロロ……。



 衝撃は、まだ膀胱内に残っていた小水を掻き回し、既に力を失った括約筋は、あっさりと尿道を明け渡した。


「なんなのよ……ぐずっ……私……こんなもの……うぅっ……トイレに行きたかっただけなのにっっ!!」


 再びの屈辱的な感触が、アリアの心を引き戻す。

 理不尽に対する当然の怒り。

 だが、作られた頭脳である遺跡AIは、淡々と自分の仕事を進める。


『シャイニーティアの譲渡完了。全ての作業が完了しました。挑戦者を送還します』


「えっ」


 アリアの体が、おそらく本日最後の光に包まれる。

 このエリアからの脱出。

 それは、先ほどまで、アリアが切に待ち望んでいたものだった。


 だが――



「待ってっ! 待って、待ってっ! これ、どうやって脱ぐのっ!? 私の服はっ!? それにっ、私、拭かないとっっ!!」


 今のアリアは、水着やインナー同然に体を露出させ、下半身は、自身が漏らした液体でぐっしょりと濡れている。

 もし、戻された場所で、まだアリアを探している者がいたとしたら……。


「ダメダメダメダメっっ!! ダメええええええええええっっっ!!!」

『送還開始』


――――――――――――――――


 最低限の照明で照らされた、薄暗い廊下。

 内装は先ほどまでいた部屋と同じだが、どこか埃っぽく、カビ臭い。

 何より、壁も床も、あちこちがひび割れ、廃墟の様相を呈している。


 アリアは遺跡エリアに戻ってきた。






「あ、あ、あ……!」



 周囲を見渡す。

 そこでは、10人程の傭兵と思しき者達が、何かを必死に探していた。

 まだ、誰もアリアには気付いていない。


 だが――






――ポトッ。

「っっっ!!?!?」



 レオタードの股から零れた水滴が床に落ち、小さな、小さな音を立てる。

 小さな、だが静寂に包まれた遺跡内で、神経を尖らせる彼らの視線を集めるには、十分な音を。


 アリアの足が動いたのは、乙女の本能によるものだろうか。

 間一髪、視線がそのあられも無い姿を捉える前に、アリアはその場から逃げ出した。


「いたぞっ! こっちだ!」

「どうして逃げるのっ!? てか、速っ!?」

「我々は、ギルドの傭兵ですっ! 貴女の救助に来ましたっ!」


 それは、アリアもわかっている。

 だが、他人に、しかも大半が男性の彼らに、こんな姿を見せるわけには行かない。


(ごめんなさいっ! ごめんなさいっっ!!)


「大丈夫っ! 大丈夫だからっ! ぜぇっ、ぜぇっ、止まってっ!」

「わかってますっ! わかってますけどっ!」


 だから逃げる、一目散に。


「今はっ、来ないでっ! 一人にして下さいっ! お願いっっ!!」


 全ては、乙女の尊厳が砕け散ったことを、せめて誰にも知られない為に。



「来ないでえええええええええええええっっっ!!!」



 アリアと傭兵達の鬼ごっこは、その後、アリアが解除方法に気付くまで、三十分に渡り続いた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

あと、人物紹介だけ書いて完結です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ