表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第三の試練『献身』

 エクエス・レヴィエムの試練の間は、本当に明るく清潔だ。


 先史文明の照明の光量は、現代の最高水準に匹敵し、室内の隅々までを明るく照らす。

 一目で高価とわかる大理石の床の上には、これまた上等な真っ赤な絨毯が敷かれている。

 象牙色の壁は金細工で豪華に飾られ、本当に、どこかの宮殿の一室の広間のようだ。


 それは、建造物として眺める分には、とても心惹かれる物なのだが、ある一つの行為に対して、

 遺跡やダンジョンの類としては、非常識な程に大きな抵抗を生むことになる。




――野ションが、し辛いのだ。



 特に、羞恥心の強い女性なら、今にも限界を超えようとしていても、下着を下ろすことを躊躇うくらいに。

 そして、そんな女性達に輪をかけて、排泄に対する羞恥心の強いアリアは、その選択肢を、頭に浮かべることすらなかった。


――――――――――――――――


『第二の試練を突破しました。最終試練を』

「やるっっ!! やるわっっ!! やるから早くううぅぅぅっっっ!!!」


 天の言葉を遮って、アリアが叫ぶ。


『なんで?』『酷い』『私が何をしたって言うの?』

 恨み言ならいくらでも出てくるが、アリアにそれを口にしている余裕はない。


『一秒でも早くトイレに』


 残された僅かな時間をそれ以外に割いてしまえば、アリアを待っているのは金色の悲劇だ。


『最終試練を』

「ああああぁぁっっ!!? 早くううううぅぅぅっっっ!!!」


 もう飽きるほど見た光がアリアを包む。

 トイレに駆け込もうとした、子鹿の様な姿勢のまま、アリアの最後の試練が始まった。


『『献身』の試練を開始します』


――――――――――――――――


『体内環境、精神状態の解析完了』

『最終試練構築完了』

『挑戦者の疑似登録完了』


――ShinyTear,standby.


――――――――――――――――


 アリアの目の前に広がる異境の都市。

 建築様式も、道ゆく人々の服装も、何もかもが未知の光景。

 唯一、学園の制服と似た服を着た若者達の存在が、自分達の世界とのつながりを感じさせた。



――神代。



 アリアはこれまた知る由もなかったが、ここはアリア達が『神代』と呼ぶ、電気と化学の時代の街並みだった。






(トイレっっ!! トイレえええぇぇぇぇっっっ!!!)

 ジョロッ、ジョロロッ!

「ああぁああぁぁっっっ!!? ト、トイレぇぇ……!」




 勿論、アリアにその光景に見惚れる余裕はない。


 括約筋は力を失う寸前。

 膀胱はパンパンで、もう一滴の隙間もない。

 アリアの尿意は、既に我慢の限界を超えている。

 いつ出口が開き、足元を水浸しにしてしまっても、おかしくない状態だ。


 ジュィィィッ!

「んんんんっっ!!? あ、あ、あっ、あっ!?」

(もうダメっ! もうっ、出るっ! トイレっ! お願いっ! トイレっっ!! はっっ!!?)


 必死に辺りを見回すアリアの目が、『それ』を捉えた。

 見慣れぬ風景の中にあって、とても見慣れた、丸と三角で出来た真っ赤なマーク。


 今、アリアが最も求めている場所。



「あぁっっ!! トイレええええええええええええっっっっっ!!!!!」



 絶叫が、響き渡った。


 両手で出口を抑え、中腰のままバタバタと、トイレへ向けて駆け出すアリア。

 その軌跡には、まるで道標の様に、ポタポタと水滴が落ちている。


(も、漏れちゃうっ! 全部っ、全部、漏れちゃうっっ!!)


 トイレに人は並んでいない。

 辿り着けば、この満タンになった膀胱を空にできる。

 今度こそ、本当に最後の我慢。

 死ぬ思いで括約筋を締め上げ、トイレまでの道を駆け抜ける。




 そして、そんなアリアに――最後の『試練』が、立ち塞がった。






――ドオオオオオオオンッッ!!






 轟音と爆煙。

 アリアの行手を遮る様に、異様な集団が姿を現す。


 黒い全身タイツで頭まで覆った、五十人にも及ぶ不気味な男達。

 そして、3mは超えるであろう、人型だが、人でも、魔獣でも、邪神でもない異形。

 全身紫色で、肌は硬質化しているのか光沢がある。

 そして、肩と一体化した頭部は、肉塊に目と口が付いた、グロテスクな見た目をしていた。


 異形は周囲を見渡し、そして、その口が笑みを作る。


「聞け、人間共よっ! この公園は我々、秘密結社『ブラックタランチュラ』が乗っ取ったっ!

 逆らう者は皆殺しにする! お前らっ! やってしまえっっ!!」


「「「「ギィー!」」」」

「「「ギィー!」」」

「「「「「ギィー!」」」」」


 異形が、その見た目からは考えられない程に、流暢な人語を繰り出す。

 逆に全身タイツ達は言葉が話せないのか、鳴き声のような叫びを上げて、手近な人々を襲い出した。

 一気に狂騒に包まれる、神代の公園。


 そんな中、アリアは出口を抑えた姿勢のまま、ただ固まっていた。


(何でっ!? どうしてっ!? 何でいつも邪魔するのっ!? 私はトイレに……おしっこがしたいだけなのにっっ!!)


 あまりにも理不尽な運命。

 それはアリアの思考に、ほんの少しだけ、尿意以外の感情を差し込む。


「何で、みんな……っ」







「私を虐めるのよおおおおっっっっ!!!!」



 怒りが、弾けた。





――ShinyTear,wake up.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ