拠点作りの気晴らしに
やることリストその四、拠点作り。
建設予定地は森林エリアにある湖のほとり。
周囲の木々に紛れられ、水と食糧の両方を確保しやすい好立地だ。
「この辺でいいかな」
木造で大虚の空いた巨木を生やして拠点の土台を作る。
中に入ると多少派手に暴れても問題ないほどの空間があって拠点にしては広すぎるくらい。
出入り口となる穴には別途ドアを作り、大まかな形はこれで完成。
「あとは内装だな。棚とかはすぐに作れるけど」
虚の内側から新たに枝を生やせば棚もテーブルだって作れる。
埋め込むように魔道具の簡易水洗トイレも配置可能だ。
「問題はベッドだな」
試しに木でベッドを作り、そこに毛布を敷いて寝転んでみる。
「ベンチで寝てるのと変わらないぞ、これ」
一日二日程度なら問題なさそうだけど、それ以上になると確実に体が軋む。
寝付きも悪くなるだろうし、それでパフォーマンスが落ちるのは避けたい。
「葉っぱでも敷き詰めてみるか? うーん」
藁のベッドがあるんだし、葉っぱのベッドも行けそうだけど。
「報告。桜庭咲希から着信。応答しますか?」
「咲希から? 繋いでくれ」
「了解」
その後、すぐにボックスの物ではない音声が響く。
「あ、真琴くん、こんにちは」
「こんにちは、咲希」
「私もいますよー」
「お、そうか。こんにちは、花恋」
「ふふ、こんにちはですよー」
人の声がするとすこし安心するな。
「それでどうしたんだ? 今日は」
「えっと。特に用事はないんですけど、無事かなって」
「ははー、無事だよ。今ちょうど拠点を作ってるところ」
「拠点ですかー? いったいどのような?」
「巨木の虚に色々と家具を置くんだ。魔物にも見付かりづらいし、いいかなって」
「わぁ、凄くいいですね。秘密基地みたいで」
「どんな風になっているのか、一度見て見たいですねー」
「ありがと。そっちの様子はどうなんだ?」
「こっちは色々と慌ただしいです。それにいくつか問題を抱えていますから」
「問題?」
「最近だと電力問題ですー。雷魔法を使える冒険者が一人しかいないのでー」
「ボックスの充電問題か」
「そうなんです。私のボックスは充電して貰えたんですけど、花恋ちゃんはまだで」
「そうか、大変そうだな。そっちはそっちで」
大人数であることの利点と欠点は当然ある。
一人の身としては羨ましい限りだけど。
「うーん」
「どうかしたんですか?」
「いや……」
雷電なら、花恋のボックスも充電できる。
ただそれをすると他の冒険者のボックスも充電することになるかも。
こっちも魔力にそれほど余裕があるわけじゃない。
そうなってしまうと困るが、でもこの話を聞いて何もしないって言うのはな。
なんだか停滞って感じがする。
やらない後悔よりやる後悔、か。
「実はあれから俺も雷の能力を使えるようになったんだ。で、ボックスの充電も問題なくできるんだけど」
「それって、つまり」
「あぁ、そっちに行くよ」
「いいんですかー? それはとっても助かりますー!」
「よかったね、花恋ちゃん」
明るい声音がボックスから響く。
やっぱり言ってよかった。
「今どこにいるんだ?」
「えっと、今は河川エリアにいます。あ、でも私たちが真琴くんのところへ行ったほうが」
「いや、いいんだ。河川エリアならすぐ近くだし、散歩がてら向かうよ」
ちょうどベッド作りで行き詰まっていたし、良い気晴らしになる。
「ありがとうございますー。では、お待ちしてますねー」
「あぁ」
通話を終えて硬いベッドから腰を上げる。
「行くぞ、ボックス」
「ナビゲートを開始します」
木の扉を開いて拠点の外へ。
森林エリアを抜けて、河川エリアへと向かった。
§
河川エリアはその名の通り、大きな川が流れる場所。
それを挟むようにして緑が生い茂り、一部には果物も実っている。
水と食糧の両方を得やすいここもまた拠点を構えるのに向いていた。
「お?」
咲希たちを探して緑の中を歩いていると、細い木の陰にもこもことした毛玉を見る。
よく近づいて見て見ると羊のような金色の魔物がのほほんと草を食んでいた。
「逃げたり襲ってきたりしないんだな」
至近距離に立っても逃げる素振りはなく、威嚇もされない。
ただただ草を食むばかりでなにもしてこない。
「よく生き残れてるな、こんなに無防備で」
「バロメッツの羊。この羊は植物の実から発生した魔物です」
「植物から羊が? そりゃまたぶっ飛んでるな」
この羊たちは種みたいなもので食べられてもいいってことか。
普通の草木みたいに食べられることで生息域を広げているのかも。
そう考えるとこの羊たちに警戒心がまったくないのにも頷ける。
「折角だ、ちょっと魔力をもらおう」
吸収で魔力を分けてもらって能力を得る。
その間も羊は草を食んで、こちらには見向きもしなかった。
随分と肝が据わっている。
「ありがとさん」
礼を言ってその場を後にして少しすると雑多な人の声が聞こえてくる。
手製のバリケードが行く手を阻み、周囲には鈴や缶の付いた糸が張り巡らされていた。
「これを揺らしたら騒ぎになるな。ボックス、咲希に連絡」
「桜庭咲希と通信を開始」
通話は無事に繋がり、安全なルートを教えてもらう。
それに沿って歩くとその先で二人が出迎えてくれた。
「あ、こっちです」
「ご足労いただいてありがとうございますー」
「いやいや、収穫もあったし来てよかったよ」
そう話をしながらバリケードの内側へ。
花恋はボックスを連れていないようで、いよいよバッテリーが切れたようだった。
ここに来た目的を果たすためにも、早く花恋のテントに行こう。
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