前脚二本、後脚は四本
「うわ、なんかビリビリするな」
靴越しに、足の裏に刺激が走る。
ここは電力確保に必要な能力を持つ魔物の生息域。
だからなのかこのエリアには微弱な電気が常に流れているようだった。
電磁石が働いているのか小石や大きめの岩が宙に浮いていたりする。
ダンジョンの壁面もどこか蒼白いし、長居すると人体に悪影響が出そうだ。
「地面に降りればそれで充電できたりしない?」
「可能。ただし、フル充電に一日を費やします」
「そう上手いこといかないか。それにいちいちこの場所に戻ってくるのも面倒だ」
どこでも充電できるようにやっぱり雷の能力がほしい。
「目当ての魔物は……いた」
浮遊する岩の影にちらりと姿を見る。
蒼白い稲妻を纏う、大型犬をより凶悪にしたような魔物。
名は雷獣。
前脚が二本なのに対して後ろ脚は四本もある。
今は休んでいるようで岩場の隅で伏せていた。
「ちょうど二十メートルくらい、射程ギリギリか。ここから魔力を吸っても効率悪いし、相手に気取られるだけだな」
「提案。先制攻撃」
「だな。確実にいくか」
使用するのはトレントから獲得した木造。
密かに能力を使い、雷獣の足下から生木を生やす。
即座に気付かれるが、うねる枝がその六本足を絡め取る。
「今だっ」
岩陰から飛び出て蒸燐を身に纏う。
射線を確保して放った火炎は、しかし雷獣まで届かない。
「あいつ、岩を」
雷獣がその身から放つ稲妻によって電磁石に干渉し、周囲に浮かぶ岩を操作された。
それが壁となり盾となり、こちらの火炎を遮断してしまう。
「オォオオオオォオオッ!」
同時に、雄叫びが響いて雷獣の頭上に黒雲が発生する。
そこから落ちた落雷が木の拘束を破壊してしまう。
晴れて自由の身となった雷獣は低く唸ってこちらを睨み付けた。
「奇襲失敗っ」
雄叫びと共に俺の頭上に幾つもの黒雲が発生する。
即座にその場から離れると轟音と共に雷が落ちた。
直撃すればただでは済まず、回避した先で即座に対抗策を打つ。
「骨々《ボーンズ》」
周囲に何体ものスケルトンを召喚。
これらは弱すぎて雷獣には手も足もでないが、その手に持った朽ちた剣が役に立つ。
再度、雄叫びが上がり俺の頭上に黒雲が発生する。
そこから落ちた雷はしかし俺ではなく朽ちた剣を持ったスケルトンへと逸れた。
「避雷針だ」
落雷が次々にスケルトンを粉々に砕き、雷鳴で鼓膜が可笑しくなりそうになる中、雷獣への接近を試みる。
ビリビリとする地面を蹴って近づくと不意に目の前を岩が横切った。
続けざまに風でも吹くように砂が舞い、横殴りの雨のように岩が降る。
「磁気嵐ってか」
前進を止めて後退するとその全貌がよく見えた。
大小様々な岩や砂が巻き上げられて竜巻となり、こちらを飲み込もうとしている。
「巻き込まれたらミンチ……だけどっ」
木造で再び木を生やす。
今度は雷獣の足下ではなく、自身の周囲に出来る限り。
複数の木を同時に操り、波のように磁気嵐へと一斉に伸ばす。
先端は岩や砂に削り取られたが数の暴力で突破。
岩の一つ一つを絡め取って固定し、細かな砂も幹が層になることで壁のように遮断した。
「やっと届く」
両手に灯した火炎を一つに合わせ、火炎の一条が伸びる。
雷獣は蒼白く発光するほど激しく稲妻を滾らせたが、それを上回る炎光がすべてを飲み込んだ。
瞬間、絡め取っていた岩の数々が浮力を失い、木々が大きくしなる。
火炎が掻き消えた後に残ったのは焼き焦げて絶命した一つの死体だけだった。
「吸収」
横たわる死体から残留する魔力を吸い上げて能力を獲得する。
全身に迸る蒼白い稲妻が獲得の証となった。
「命名、雷電」
「じゃあ早速」
稲妻を纏う右手でボックスの頭頂部に触れる。
「充電開始。完了まであと五分」
「意外と早いな。手間も少なく済むし、このまま帰るか」
これでやることリストその三も達成。
やることリストその四はもう決めてある。
寝床、つまり拠点作りだ。
木造が役に立つ。
そのためにも一度、森林エリアに戻ろう。
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