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幹に現れる人面瘡


 電力確保のため、ボックスを連れて森林エリアを後にする。


「電力に寝床、問題が山積みでダンジョン攻略どころじゃないな」

「急いては事をし損じます」

「わかってる。ただでさえ一人なんだ、慎重にいくよ」

「訂正。一人と一機」

「ん? あぁ、悪かった。二人だ」


 ちゃんと数に入れとかないと。

 ボックスの支援なしにこのラストダンジョンは攻略できない。。

 寝床の確保よりも優先する価値がある。


「とはいえ、遠いな」


 水も食糧もあるとは言え、雷を扱う魔物の生息域はすこし遠い。

 通路を歩けばそれだけ魔物との遭遇率も上がる。

 手早く電力を覚悟して拠点作りに専念したいんだけど。


「おっと?」


 何かを踏み砕く感触を得て、足下に目を通す。

 足を持ち上げると、砕けた枯れ木が軽く跳ねる。


「こんなところに木?」


 ダンジョンの通路は岩と土ばかりで植物の気配はない。

 この周辺だと緑があるのは森林エリアだけ。

 そこからも離れた位置だし、どうしてこんなところに。


「続いてるな」


 ちょうど行く道の先に、木の根のように這う枯れ木が伸びている。

 足を進めるたびにそれは数を増し、スパゲッティの如く絡む。

 それが地面を覆い始めた頃、通路が途切れて広めの空間が姿を現した。


「枯れ木まみれ」


 空間の縁を囲むようにして、枯れた巨木が並んでいる。

 葉は落ち、色は褪せ、朽ち果てていた。


「森になり損ねた場所ってところか」

「報告。魔物の反応を検出」

「出たな。どこにいる?」


 剣を抜いて周囲を見渡し、前回のことを踏まえて背後にも注意を向ける。

 前後左右に抜かりなく目を配るが、魔物の姿はまだ見えない。


「上か?」


 視線を持ち上げるも、岩肌の天井が映るのみ。


「まさか」


 嫌な予感がして足下に目を落とすと、足下の枯れ木がぐにゃりとうねる。


「今度は下かよッ」


 急いで飛び退いたがすでに遅く、枯れ木に足を絡め取られた。

 矢継ぎ早にあらゆる方向から枯れ木がうねり、体を拘束される。


「あぁ、くそッ。またこれだ、芸がないッ」


 俺を拘束したことで、魔物たちが姿を見せる。

 いや、動き出す。

 それはこの空間を縁取るように生えていた枯れた巨木たち。

 幹に顔が浮かび、枝が揺れ、根っこがうねる。


「トレント……」


 植物系に属する魔物。

 枯れ木に擬態し、獲物が罠に掛かるのをじっと待つ。

 捕らえた獲物を絞め殺し、土へと返すことで養分を得ている。

 まんまと嵌められた。


「相手が木ならッ」


 絞め殺される前に炎鱗を身に纏い、全身から火炎を放つ。

 魔物とはいえ植物は植物。

 燃やされれば一溜まりもない。

 火炎に触れた枯れ木は一瞬にして灰となって拘束が解けた。

 植物なのに痛みでもあるのか、トレントたちは痛がるように表情を歪ませる。


「よし、このまま全部灰にしてやる」


 前回よりも楽に地面に足をつけられた。

 こちらに火がある限りは負けはない。

 全部燃やしてその残骸から魔力を吸ってやる。

 と、思っていたのだが。


「ウオオオオオオオオオオオオオッ!」


 表情を歪めていたトレントたちがついに泣き始める。

 恥も外聞もなく、子供のように泣き喚き、そして大量の涙を流す。

 目から溢れ出たそれは、涙にしてはどろりとしていて流れが遅い。


「樹液? ともかく、燃やせばいいだろ」


 まずは正面のトレントに向けて火炎を放射する。

 真っ直ぐに伸びた火炎が枯れた巨木を包み込む。

 これで一体仕留められたと思ったのも束の間。


「なぁ!?」


 火炎に包まれたトレントは燃え尽きることなく動き続けている。

 寧ろ火炎を纏ったことでより攻撃性を増し、火炎の鞭が振るわれた。


「どうなってる!? 燃えてるだろ!? あれ」

「流れ出た樹液が保護膜の役割を担っていると推測」

松脂まつやにとは違うってわけかよっ」


 火炎は伝播し、すべてのトレントへと行き渡った。

 周囲は火炎に包まれ、あらゆる角度から炎の鞭が風を斬る。

 自分から出た炎で焼かれることはないが、このままでは嬲られるだけだ。


「ええい、とにかく消化だッ!」


 ケルピーから得た能力を使用し、手の平で水が渦を巻く。


「命名、水毛ウォーターメイン


 手の平を突き出して放った水は鉄砲にも引けを取らない速度で前方のトレントを襲う。

 勢いよく火炎を消し去り、樹液をも洗い流す。

 粘り気のある樹液がなくなり、巨木の表面が露出した。


「――これだ!」


 すかさず火炎を放つことで、露出した部分を焼却する。

 自身の一部を失い、トレントは更に顔を歪めて涙を流すがもう関係ない。


融合フュージョン


 炎鱗ファイヤースケイル水毛ウォーターメインを融合。

 炎のような赤い鱗に水のような青が混じる。

 相反する二つの能力は水蒸気を上げて共存した。


「命名、蒸鱗スチームスケイル


 他の能力と融合したことで水の勢いは更に増し、放った鉄砲水が濁流となって火炎と樹液を押し流す。

 次々に丸裸となるトレントへ、浴びせかけるのは火力を増した火炎。

 触れれば即座に灰になるそれは蛇のようにうねり、次々に飲み込んでいく。

 水と火炎が互いを追い掛けるように空間の縁を駆け、すべてのトレントが燃え尽きる。

 能力を掻き消すと、大量の灰がどさりと降り積もった。


吸収エナジードレイン


 灰燼かいじんとなったトレントたちから残留した魔力を吸い上げる。

 能力で消費した分の魔力は補充され、そして新たにトレントの能力を獲得した。

 試しに使ってみると、地面から木が生える。

 これはある程度、自由に動かせるようだ。


「なんて名前にする?」


 生やした木は犬の尻尾のように左右に揺れている。

 みょんみょんみょんって感じ。


「命名。木造ウッドクラフト

木造ウッドクラフトか――あ、そうだ」


 ふと思いついて、生やした木を巨木へと成長させる。

 その巨木には大きな虚があり、中は空洞。

 中に入ってみると、十分なスペースが確保されていた。


「この中を拠点にしよう! やることリストがまた一つ片付いた」


 木の中なら魔物にも気取られにくい。

 比較的安全な寝床兼拠点になるはずだ。

 後回しにするはずだったやることリストのその二はこれで達成。

 次こそはやることリストその三、電力確保だ。

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