人との繋がりと次の目標
「手を貸します」
「あぁ、ありがと」
黒髪が小さく揺れて差し出された手。
それを握って湖から這い上がる。
「足を滑らせてしまったのでしょうかー?」
「いや、ケルピーに襲われてさ」
「なるほどー、それは災難でしたねー」
緩いウェーブの掛かった茶髪のようにふわりとした声が響く。
彼女の言う通りまったくだ。
「ずぶ濡れですね。戦闘服を乾かさないと」
「いや、平気だよ」
そう言いつつ彼女たちから二歩分距離を取る。
それから炎鱗を纏い、体や衣服から余分な水分だけを蒸発させた。
「ふぅ」
「おー、便利ですねー。乾燥機いらずですー」
「これなら風邪も引きませんね」
適当に干した洗濯物みたいに衣服が硬いけど、動いていればすぐにほぐれる。
「あの。あなたは知っていますか? 出入り口のこと」
「あぁ、知ってるよ。目の前で起こったことだから」
「では、そのとき現場にいたんですねー」
「惜しいことに外に出る直前だったよ」
もうすこし早く歩いていれば、もうすこし早く切り上げていれば、ダンジョンに閉じ込められずに済んだかも知れない。
もう過ぎたことだけど、考えずにはいられなかった。
「出口は見付かった?」
「いえ、まだ。今は平行して食糧の確保を」
「考えることはみんな一緒か」
水に食糧、それと寝床だ。
それがないと始まらない。
「食糧も見付かりましたから一度、みんなのところに戻りませんかー?」
「そうですね。あなたもお疲れみたいですし、三人で戻りましょう」
「あぁ、いや」
難色を示すこちらに、二人は不思議そうな表情を作る。
「悪いけど、俺はいけない」
「焦る気持ちはわかりますけど、ここは無理をしないほうが」
「そうじゃないんだ。えっとだな」
二人に吸収のことを話した。
「魔物の能力で戦えはするけど、いざって時には魔法を使ってしまうかも。それでもし撃てるはずだった魔法が撃てなかったら、俺のせいで人が死ぬ」
「そう……だったんですか。ごめんなさい、私なにも知らなくて」
「いいんだ、こっちの事情なんてわかりっこないし」
察しろと言うほうが無茶だ。
「むーん、難儀なことですねー。どうにかできれば良いのですがー」
「その気持ちだけで十分だよ。俺は一人でもやっていけるから大丈夫だ」
「えーっと、じゃあこう言うのはどうですか? 共闘はできなくても情報共有はできますよね? 物資の交換も」
「あぁ、まぁ」
「じゃあ、お互いのボックスでやり取りをしましょう。そのほうがお互いの利益になりますし」
「そうだな……たしかに情報はほしい」
「救難信号を受け取って救援にも行けますよ」
メリットしかない。
共に戦うことはできなくても、これなら迷惑は掛けないか。
「よろしく頼むよ」
「はい! では」
「私のボックスも登録してくださいねー」
お互いのボックスで登録を行い、以後連絡を取り合えるように。
「私、桜庭咲希です」
「私は蜜芽花恋と言いますー。以後、お見知りおきをー」
「兎月真琴。よろしく、二人とも」
一人なことに変わりはないけど、繋がりができた。
「そうだ、果物とか持ってない? キメラの肉と交換してほしいんだけど」
「ありますよー。お肉は取れていなかったので助かりますー」
「わぁ、早速ですね」
いま欲しい果物を手に入れ、取れた場所も教えてもらった。
やることリストのその一はこれで完了。
次はやることリストその二、寝床の確保だ。
§
ダンジョンはほぼ全域が危険地帯で、安全と呼べる場所は少ない。
昨夜の遺跡も決して安全という訳ではなかった。
いつでも戦えるように剣を握り、浅い眠りのまま目覚めを迎えている。
あと数日くらいなら、それを続けても問題はない。
けど、いずれは限界が来てしまう。
せめて寝心地のいい寝床を作らなければ。
「葉っぱを袋に詰めれば枕くらいできそうか。問題はどこで寝るかだけど」
「報告。バッテリー残量が三分の一を下回りました」
「げっ、そうか。ボックスの充電もしないとか」
充電が切れると折角の繋がりも途切れてしまう。
何より支援を失うのはキツすぎる。
「寝床の確保より先にボックスのバッテリー問題が先だな。ちなみに後どれくらい持つ?」
「活動限界まであと十二時間」
「半日か。余裕があるようでない微妙な時間だな」
もたもたしてたらボックスが活動を停止してしまう。
「……俺が雷の能力を手に入れれば充電は可能か?」
「電気があれば当機が変電することで充電は可能です」
「なら、決まりだ。まずは電力確保からだ」
やることリストその二を飛ばしてその三へ。
電力を確保しよう。
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