美味しい料理とマッサージ。そしてシャワーヘッド
「――あ、真琴くん!」
「いつもお世話になってますー」
「いつもってほどじゃないけどな」
罠の抜け道を通って咲希と花恋に合流した。
二人はボックスを引き連れていたので、両脇に抱えて受電しながら拠点にお邪魔する。
テントにつく頃には充電も終わっているはずだ。
「おやー?」
雑談の合間に花恋が何かに気付く。
「どうしたんだ?」
「いえ、今日の真琴くんはなんだか良い匂いがするなと思いましてー」
「あ、ホントだ。良い匂い。これ、果物の匂いですよね?」
「あぁ、今朝湯船に浮かべてたからそのせいだな」
握り潰した甲斐があったみたいで悪臭はしないみたいだ。
そのことにほっと安堵する自分がいた。
「そっかぁ。能力が複数あると快適にお風呂にも入れちゃうんですね。いいな、羨ましいです」
「こっちはそうじゃないのか? あぁ、でもそうか。充電と同じで」
「はいー。どうしても負担が偏ってしまうので。なかなか自由にとはいかなくてー」
「それは辛いな」
俺は多少風呂に入れない日があっても苦じゃないけど、二人にとっては死活問題に等しいのかも知れない。
「充電完了っと」
二人にボックスを返すと、ちょうどテントまでつく。
「湯船はやっぱり木で作るんですか?」
「そうそう。周りに柵を立てた屋外で肩までゆっくり浸かるんだ。葉っぱの天井が風で揺れて光がちらちらしてさ。あれは良いもんだったよ」
「うぅ……なんだかお風呂に入りたくなってきましたー」
「ははー、悪い。一応、湯船を作って湯を張るくらいなら直ぐにできるけど、それくらいなら魔法を使わなくてもできるよな」
「そうですね。でも、結局魔法がないとシャワーが使えないので体を洗うのは大変なんです。桶でお湯を汲むんですけど、お湯に限りがあるので回数制限があって……」
「湯船が汚れてしまうのも避けたいですし、湯船のお湯がなくなるのも困りますー。ですからどうしてもと言うときは冷たい水で……」
「聞いてるだけで寒くなってきた」
とても大変そうだ。
俺になにかできないかな。
「シャワー……そうだな。俺にできるのはこれくらいか……」
ふと思いついて地面から木を生やす。
変形させ、内部に虚を走らせて微調整。
これで一応の形にはなった。
「これはー」
「シャワーヘッド……の木ですか?」
「そう。これを湯船に立てれば……」
テント側の邪魔にならない場所に木造の湯船を仮設置。
中に湯を張り、シャワーヘッドの木を立てる。
すると、それは直ぐに根を張り、お湯を吸い上げてシャワーを吐く。
元は魔物の能力だからお湯の温度で枯れることもないはず。
「これでよし」
「おー! あっという間にシャワーができちゃいましたー!」
「凄いです! 真琴くん! あの、これってまだ何本か作れますか?」
「あぁ。だけど魔力が――」
「皆さんに相談してきます!」
言い切る前に咲希と花恋は勢いよく外に出ていってしまった。
「大仕事と予想」
「わかってる」
それから直ぐに何人かの冒険者を連れて戻ってくる。
「話は聞いたよ。へぇ、これが。たしかに数が欲しいね」
「あたしらの魔力でそれが作れるなら是非ともやってくれ」
「あとボックスの充電も頼むね」
「ははー。こりゃ気合い入れてかないと」
彼女たちの魔力を貰い、シャワーヘッドの木を量産。
それに加えてボックスの充電も平行し、忙しい時間が過ぎる。
「ふぅ、流石に疲れたな」
シャワーヘッドの木を希望の本数揃え、ボックスの充電も完了した。
疲れたけど喜んでくれる人たちの笑顔を見ると報われた気がする。
役に立てることがあるなら、これからも協力したいな。
「よくやった! えらいぞ、兎月! あたしがマッサージしてやろう!」
「おっ、おおおおおおっ」
ちょうど良い指圧のマッサージを施され、心地のいい痛みが走る。
ベッドと朝風呂でほぐれたと思っていた体が、更にぐにゃぐにゃになっていく。
今なら前屈で自己ベスト更新できそう。
「体が軽くなった……」
「そうだろうそうだろう。あんたのお陰であたしは随分と楽できるからね、またいつでも解してやるさ」
「あたしのってことは、あなたが風呂を」
「あぁ、水の魔法で温度調節やらお湯の雨やらを降らしてたのさ。でも、次からは溜めた水を湯に変えるだけで済む。随分と楽になったよ。だから、こいつは細やかなお礼って奴さ」
「そういうことなら、次も頼みます」
「遠慮はいらないからね」
魔法疲れが吹き飛んだ気分だ。
癖になりそう。
「真琴くん! お昼ご飯ができましたよ! 食べていってください」
「いいのか? 俺、部外者だけど」
「あんたはよく働いてるんだ。文句はあたしらが言わせないよ」
「そういうことですー。さぁ、行きましょうー」
花恋に手を引かれてテントの外に出ると、配膳係から料理をもらう。
スープに浮かぶ山菜と肉団子。
キクラゲのようなキノコが練り込まれていて、一口食べると肉の旨味が広がり、シャキシャキの食感が楽しめた。
まともな料理は久しぶりだ。
いつも焼いて調味料を振りかけるだけだったからな。
今度、料理にも挑戦してみるか。
「よう、兄ちゃん。ボックスの充電、ありがとな」
「あぁ、いえ。いいんですよ、こうして美味いもの食えましたし」
「はは、若いのにいい子だなぁ。そんな兄ちゃんに忠告だ、化け狐に気をつけな」
「化け狐?」
「テウメソスって魔物のことだよ」
近くにいた冒険者にそう教わる。
「そうそう。足が速いし、化かしてくるし、狐火もあるしでありゃ所見殺しも良いところだ」
「ちゃんと対策練ってないとわからん殺しされるから気をつけろ」
「お話、ありがとうございます。テウメソスか……」
先輩方がそう言うなら、危険な魔物に間違いはない。
聞きかじった情報しかないため、その力量を測ることすら難しい。
今の俺で勝てるのか、勝負になるのか、その辺のことがはっきりするまで、テウメソスに挑戦するのは止めておこう。
でも、いつか倒すために当面の目標として設定しておくのはありだ。
やることリストその五は、ついにダンジョン攻略について。
テウメソスの討伐だ。
「真琴くん。おかわりはいかがですかー?」
「ありがとう、もらうよ」
目標も定まったし、今を楽しもう。
マッサージは心地良いし、料理は美味しいし、新しい目標も得られた。
シャワーヘッドと充電の見返りとしては十分過ぎるくらいだ。
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