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91話 塩気強めにいくぞ

それからの対抗戦は、もうやりたい放題だ。列に並んだ騎士たちが順番に屠られていく光景、何とか言葉をひねり出す実況開設の気まずさ、もう説明する必要もないだろうから、詳細は省くことにしよう。なに、団長一人が各ブロックで、勝利をあきらめた精鋭を十五人飛ばしたというだけの話だ。


晴れやかな表情で『散歩』から帰ったリティエ騎士団長の魔法は数段キレを増し、Bブロックで猛威を振るうのみ。第一騎士団長ミアは一人一撃最低限、我らがアイリス団長も同じようなものである。俺がこの戦いを、もっと面白いものとして語れたらよかったんだが。まだ少し、工夫と思いやりが足りていないのかもしれない。


「思ったより、塩気が足りなかった。」


隣の客が呟いて、俺はやるせなかった。もう少し面白くできたもの、見世物として作られたにしては刺激の弱かったこの作品を前に、俺は自分未熟さを感じることばかりしていたようだった。


「・・・だが、許してほしい。」


くだらない悪巧みをした連中のボスは『アルデバラン』と言ったらしいが、とうとう俺はそいつを見つけられず、煮え切らない気分のまま帰った。


「これからは、ちゃんと面白く。愉快な試合になるべくして、本気で戦うと誓う。」


グダグダと並べてすまない。しかし、本題はここからだ。今までのは、主張を抑えた前菜か何かだと思ってくれればいい。


「だから、もう少しだけ見守ってくれ。・・・私、いや、『俺』は・・・」


時は、騎士団対抗戦準決勝前。『アラン』という男の帰還を純粋に喜んでくれた第三の面々に迎えられ、その無表情は無表情のまま、遂にその口を開いた。



「『誠、ここに在らん』。あんたらが待っていたアランという男は、実は存在しないんだ。・・・今まで騙していて、悪かったな。」



真田、誠。それが俺の名前だ。待機室に帰るなり急に口を開いた俺は、開いた口を塞がない第三騎士団の前で変装を解いて見せた。無口なひげのおっさんも、口のきけない他国の女性も存在しない。


「えっ・・・そんな、まさか・・・!!」



「アランのおっさんって・・・真田だったの!!?」



そう、いたのは全て、黒い学生ブレザーをてきとうに着た一人の男子高校生、雨宮玲子と同級生で仇名付き指名手配犯の、マコト=サナダだ。


「ははは、やられたね。なんとなくそんな気はしてたけど、なにせ姿が違うものだから。」


「へへ、あたしは最初から知ってたけどな!見た目が違っても、サナダにぃはサナダにぃの匂いがするからさ、獣人族のハナはごまかせないんだぜ!!」


「・・・お前の名前、まこと。おぼえた、もうわすれない。」


王子とミニっ子二人も、各々の反応を見せる。リアについてはグルだったが、今の今まで隠し通してくれたようだ。後でパンを与えることとしよう、こいつの食事は要観察だ。


「光魔法の幻影術をなんやかんやして、変装していた。悪食の死屍鴉が騎士団対抗戦に出たんじゃ、確実に騒ぎになるからな。」


離れた場所に幻影を発生させる幻術、射程距離の概念がない俺にしちゃ、ちょっと向きを意識すれば変装術でしかない。自分より小さいものと過度に大きいものは無理だが、ちょっと分厚い服を来た老兵の姿くらいなら余裕で保てる。


「え、えぇぇっ・・・でもそれ、私たちには教えてくれてもよかったんじゃ・・・」


「あんた嘘つけないだろ、周りに聞かせないためにゃ、スピーカーじゃなくてイヤホンだ。」


困惑する団長。愉快な顔だ。


「んじゃ真田、今まで何やってたの。係員誤魔化すの、結構苦労したんだけど。・・・王子さんが」


「・・・そうだな。悪かった。ちょっとスタジアムの催眠ガス煙幕撤去して、それ仕掛けたテロ集団ぶっ飛ばしてた。ちょっとへまこいて死にかけたところもあったが、なんとかなって良かったよ、ほんと。」


淡々と語るが、本心だ。あそこでリティエ団長に会わなければ、多少の負傷者は出ていたはずである。だから安堵の意味で息をついたのだが、面々はそろいもそろって溜息を吐いた。


「はぁ・・・もうマジ、真田クオリティ。」


雨宮は雨宮らしい表情で呆れ笑い、これはいつもの穏やかな雰囲気である。


「・・・そんじゃ、準決勝も気張ってくれ。第二のリティエ団長、奴は今なんやかんやあって絶好調だから、ガチでいかないと消されかねない。・・・くれぐれも、アランが俺だってこた内密に頼むぞ」


俺はあのジットリ目つきを思い出し、再び『アラン』に化ける。


空はさっきよりずっと明るい。ここからは、刺激強め、塩気強めにいくぞ。


準決勝は、もう始まるようだ。

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