84話 殺したところで死にやしない
───聞いたこともない銃声が、暗い廊下にこだまする。思わず目を瞑った私は、半ば絶望しながら顔を上げた。
「っ・・・!?」
「ぐ・・・腕がぁっ!!」
しかし私は、すぐに目を見開いた。彼は、無傷だった。怪我を負ったのは、銃を撃った男のほうだった。
「──跳弾。まあ、予想外だよな。」
奇跡、そのものだった。彼の鉄パイプは銃弾を弾き、それは勢いを殺さずに壁へ、二、三回反射して、銃を持っていた男の腕を貫いた。
「ふ、ふざけるな!!ただのまぐれだ、ひるまず撃て!!」
「し、死ねえっ!!・・・がァッ!?」
「ぐ、ぐあああああああ!!」
「おまえ・・・!!なに・・・を・・・!」
ありえない光景だった。三回銃声がして、彼はゆっくりと歩くだけ、すると銃弾は三人の相手を穿った。
「何が起こってやがる!!テメエいったい何をしやがった!?」
「丁度いい位置にこいつを構えているだけだ。・・・分からないよな。自分の武器が自分を刺すと、今のお前らに分かるはずもない。『魔法なんてくだらない』と言ったな。けどお前らは、簡単に手に入れた力を大雑把に使うのが好みなんだろ?それなら当然、お前の魔法はくだらないものだったろうよ。」
魔法のことを嘲笑った男は、蛇でも見たかのように後ずさり、怯えを隠すように叫ぶ。
「複数人で畳みかけろ!!撃て、撃てえ!!」
「なんだこいつっ!?ぐはぁっ!!」
「・・・聖霊の前じゃ塵芥同然の自分を認めて、悔やんで足掻いて『意思』を固める。強さってのはそうやって培うもんだろう?」
「うぐぅおっ!!」
「銃撃部隊、私を含めて残り二人──うわあああああっ!!?」
「・・・だから俺の知る『騎士』たちは、殺したところで死にやしないぞ。」
彼がむこうを向いたまま、鉛球をはじき返したその棒を振り切って見せた。その背中はかつて私を打ち負かした大魔導士のようでありながら、私に杖を買ってくれた両親のようでもあった。
「・・・リティエ=ヴァイスだったか。」
「・・・!?」
彼が私の名を呼んだ。
「あんたの魔法、あれはいいもんだな。」
一人が引き金を引き、彼のパイプが金属音を響かせるのと同時に、彼は言った。
「───なんというか、『綺麗』だ。」
褒められたことなら、いくらでもあった。強い、可愛い、綺麗。軽い言葉だと思ってた。
「っ──!!」
ぼやけていた視界が、瞬く間にひらけた。
「ぐあああああああっ!!」
「──これで十七。・・・行くぞ。」
彼が踏み込んで、構える。
「銃撃部隊全滅!く、来るぞ!!」
「たかが一人だ!銃が利かなくたって一発なぐりゃあ───うごぉっ!?」
「雑魚一匹に何やってる、早く囲んでやっちまえ!!」
「「うおおおおおおおお!!」」
むきになって襲い来る集団に、あいつは笑って吐き捨てた。
「互いの強がりがいつまで続くか、試してみるか?───」
─────
────────────




