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81話 結局切れ味は鈍い

「見ろよ、あの紋章。落ちこぼれのゲウムの生徒だ。しかも、その中でも特段弱くて有名な、白髪翠眼のリティエ=ヴァイスだ。落第生が魔術コンなんか出たって、へっぽこ魔法じゃ相手にすらされないって。」

「そーそ。あんまりつまんねーようだったら、俺が魔法教えに行ってやるよ。」

「お前、あの子の見た目が気に入っただけだろ?まあ俺も、その時はご一緒させてもらうがな!!」



「・・・はぁ。雑魚がこぞってうるさいな。・・・雪辱を晴らすには、ちょっと味気がなさすぎる。」



一年に一度の魔術コンクールは、成長した自分の実力を知るいい機会だと思って応募した。必死に努力して苦しんだ経験は全部覚えていたから、磨きもしない才能をぶら下げた連中に負けるつもりは無かった。


「次の方、どうぞ。」


魔術審査員のおばさんは、全員同じような振舞いだ。自分は審査する側だから、少し鼻が高いのか子馬鹿にしたような点呼をかける。だが、見下されて怯むような私はもういなかった。


「ほらあの子、緊張して目なんか閉じてるぜ?いやぁ、可愛いもんだなぁ!・・・って、あれ?・・・あの魔法陣、どんどん大きくなって、嘘だろ!!?」


(・・・あーあ。見学の態度も評価対象だってのに、ばかな連中。)


「ふぅぅぅ。・・・天の滝(ヘヴィレイン)!!」


水の精霊を強くイメージ、魔力を集中して、唱える。潜在的な魔力を乱暴に放つ、才能頼りの魔法とはわけと格が違うのだ。訓練用人形の周りに激しく降り注いだ水魔法は、一度地面に着地してから大きく唸る。その全ては人形の方に波打ち、ぶつかり合って大きなしぶきを上げた。魔力で編まれた強化人形が一瞬でヨレヨレになったのを見れば、魔法の威力は一目で分かる。


「なっ!!・・・あいつ、ゲウムでっ!!」


「うわぁぁ、すっげええ・・・!!」


目を丸くする下衆男子どもを傍らに、一般枠の見学であろう男児が感嘆の声を漏らしている。


馬鹿にしてきた奴らを見返して、幼い子らの憧れとなる。その時私はやっと、今までの努力が報われた気がした。小さいころあれほどなりたいと願った偉大な魔法使いに、ついにはなれたのだと思った。


「リティエ=ヴァイスさん、八十九点。次の方、どうぞ。」


しかし、それは違った。思ったより淡白な審査員の反応と、予想より低かった点数。そして何より酷かったのが、それである。


「・・・震わす水(エボルブアクア)


詠唱名通りに、つま先から骨髄まで。その場にいた全員の心の奥底を震わすような衝撃波は、およそイメージの柔らかい水魔法で構築できるものとは思えなかった。


「う・・・うそ。・・・そんなっ。水の精霊はのんびりした感じなのに、どうしてっ・・・!?」


「───な、なんだ、なんだよあれっ!!」

「ひゃ、百点です。」


「・・・、こんなものか。」


「っ・・・。」


沸き立つオーディエンスと、泰然自若な長身の魔導士。私の思い描いた物語の情景が、そこにはあった。その中心に立っているのは、私ではなかった。膝をついて動揺する私の隣を横切り、魔術師の帽子を深くかぶった人物は去り際に言った。


「寛容なるは『意志』だ。・・・復讐心は使い勝手が良いが、結局切れ味は鈍い。」


「・・・。」


図星だった。私は見返したいとか、悔しいとかの気持ちを元手に魔力を固めたが、べたついて、まとわりつくような魔法になってしまうきらいがあった。


「また、また私はっ・・・!!」


またもや、負けた。審査員が百点をつけたのも当然だ。あれは練度と才能の判別がつかなかった。言い訳のしようがなかった。勝てない人がいることを、私は知ってしまった。悔しかった。精霊に見放された感覚だった。力強い精霊に甘えてばかりの駄々っ子だったと、誰かに告げられた気がした。


「・・・意志、って。性格ひねくれた私にそんなん言われたってさっ・・・!!」


その人の言葉がつっかえたまま、悶々とした日々を過ごした。私の中に、復讐心以外の強い意志があるとは思っていなかった。いや、多分その時は、本当にその程度の意志だった。だから、諦めようとした。悔しい気持ちの限界はないように思えたのに、魔法の方はもう限界みたいだったその時に。全部諦めてしまおうと思った。




「『助けて』っ・・・!『助けて』っ・・・!!」


「っ・・・!!」



だがちょうど、『助けて』なんて言葉を聞いた時だった。

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