78話 ちょうどあんたみたいのを
「どうされましたか?ここは関係者以外立ち入り禁止区域ですが。」
「ああ、これはどうも。人を探しているうちにここまで来てしまったんですが、この辺りで誰か見かけませんでしたかね。大きな袋を持っていて、黒い耳飾りをつけている・・・・・・あぁそうそう。───」
「・・・ッ!!」
「──ちょうどあんたみたいのを、な。」
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「・・・西区域担当のアストス及びロンとの連絡が途絶えた。装置に魔力観賞はないようだが、座標が止まったまま発信にも応答しない模様。・・・了解、こちらも人質の確保を最優先事項とする。『リュウココニアラン』。・・・・・・騎士団の保護対象つったら、ガキか女だな。」
昼食時、隣接の自然公園に観客が散った後には、スタジアムも一時の休息に入っている。人影は徐々に減ってきており、男が見渡す限り、一区間に十人いないといった様子である。
「人質になりそうな奴は──ッ!いってえな前見て歩けッ・・・と、女か。」
「・・・!」
「あぁ?ペンとメモなんか取りだして、それで詫びのつもり・・・いや、おい女、耳が聞こえねえのか?『いきなりぶつかってすみません』・・・あー、なるほどな。」
「・・・。」
「『一人で来たのですが、出口が分からなくて困っている』、おーそうかそうか。・・・『案内するからついてきてください』っと。こいつはいい物件かもな。」
筆談のメモを返し、おもむろに歩き出す。男は背を向けてすぐ、自分が人を騙していることを知りながら、嗤った。
「こちらエスト、人質候補を確保。すぐに例の部屋へ運び込む。『リュウ、ココニアラン』。」
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「ふー。・・・疲れた。」
ガラリと空いた観客席に、一人。支給された栄養食を傍らに、白髪の少女は闘技場の中心をぼーっと見つめている。
「騎士団長は強くて当然、そりゃそうだけど。・・・・・・私だって、最初はただの落ちこぼれだったのにさ。」
ため息を吐いて、たそがれる。彼女は神々しく強大な第二騎士団長だが、それでも毎日こうである。というのは、彼女の心に巣食う、根本的な人間不信が原因だ。
【強化水術!!】
【強化水術!!】
【強化水術!!】
【皆さん、良い調子ですね。では次、リティエさん。やってごらんなさい。】
【は、はい!うぉ、水術!!・・・・・・えっ、と。えへへ。】
【───ぷはは!なんだ今のちょろちょろ!!おまえ、才能ないんじゃないか!?俺がもっと強い魔法のやり方、教えてやるよ!!】
【・・・う、うぅっ!!】
【あ、ちょっと!リティエさん!!・・・はぁ、行ってしまいました】
【・・・はぁっ、はぁっ!!水術!水術、水術、水術!!・・・くぅぅうっ!!】
彼女は、弱者を見るのが嫌いである。力無き人間の姿は、水魔法より大きかった頃の涙を想起させるからである。泣き叫びながら術を唱えた頃の記憶を、彼女は忌み嫌っているのである。
【次の方、どうぞ。】
【ふぅぅぅ。・・・天の滝!!】
【うわぁぁ、すっげええ・・・!!】
【リティエ=ヴァイスさん、八十九点。次の方、どうぞ。】
【・・・震わす水。】
【──っ!!】
【───な、なんだ、なんだよあれっ!!】
【ひゃ、百点、です。】
【・・・、こんなものか。】
【っ。また、また私はっ・・・!!】
彼女は、強者を見るのが嫌いだ。強大な者は否応なしの劣等感を以て、彼女の心を悩ませるからである。自分が努力面で劣っていることも、才能面で劣っていることも、彼女はどうしても考えたくないのだ。強者を見て傷ついた自分を見つめると、醜く見えて仕方ないのだ。
現在の彼女が放つ数々の魔法は、彼女が日々精霊との対話を試み続けたことの証である。実を言うと、いや言うまでもなく、彼女の実力は本物だ。しかしながら、彼女はその悲劇のような、日常のような道筋を辿る中で、人の事が少しだけ嫌いになった。
それが、リティエ=ヴァイスという少女の今である。
「騎士団対抗戦で勝てば、このモヤモヤは晴れてくれるのかな・・・。」
そうして、力なく呟いた第二騎士団長リティエ=ヴァイスの前には、一人の男が現れた。
「これはリティエ=ヴァイス第二騎士団長、ご機嫌いかがですかな?」
「・・・どなたですか。」
「おおっと失礼、まだ名乗っていませんでしたね。・・・私の名前はエオス、所属団体は・・・・・・『竜の咆哮』と申します。」




