68話 朝の焦りというのは
あとは、鍛錬の時間。交流会の余韻に浸る時間は、その日が終わる時までだった。ある者は大技に磨きをかけ、またある者は小技で大敵を穿つための地固めをするのである。どちらも賢明で、甲乙つけがたい事なのだ。
「・・・・・・明日が、騎士団対抗戦の本番なんですが。」
ただ、丙というか、例外もある事にはある。朝早くから額に汗を浮かべる第三騎士団長らは、まさにそれにあたるのだろう。
「・・・チームメイトが、あと二人足りません!!」
「それ、そろガチめにやばいよね・・・。」
「──闘いごっこ、出れない?」
第三騎士団は今、人数不足による対抗戦不参加の危機に立たされている。状況は崖っ縁そのもので、そもそも正式な団員数が四人というのが異常なのだ。団長、副団長、たった一つの隊の隊長と隊員が、それぞれ一人ずつ。メモ隊員は非戦闘員であるから、対抗戦に出場が可能なのは実質三人、五人一組のチーム戦形式には二人足りない。そういう事情があって、第三騎士団は対抗戦前日にもかかわらず、あたふたしながら緊急会議を開いているのだった。
「人事を尽くして天命を待つ、そう思ってはいたんだけどね・・・最終日ともなると、流石に妥協案を考えなくてはならないか・・・。」
朝の焦りというのは、人の心を蝕むものだ。王子や雨宮も今、若き日の朝に体験した苦い記憶を想起している。
「そりゃあ真田だって、色々忙しいんだろうけどさ。・・・って、ああもうっ。勝手に夢見た私が悪いんじゃん・・・!」
なんというか、気勢が削がれた時はもう、全ての事柄が鬱陶しく思える。ただ目標に向かって、日夜研鑽を積んでいたはずなのだが、どうしたものか。どうしようもない空気が立ち込めて、背の伸びた一同は溜めた息を吐きこぼす。
「正式な団員じゃないと出場できないから、助っ人も呼べないし・・・私が前から、もっとちゃんと探していれば・・・!!」
後悔に頭を抱えた彼女らが目をやったのは、バルコニーに出ていったきり、ただ無言で外を見つめていた少女の背中だ。
「メモ君・・・!」
あの背中は、機を待っている。そして今、唯一前を向いて立っているのが彼女だと、部屋の中にいた三人は気づいた。
最初に王子、次に雨宮とアイリス団長が、ゆっくりと立ち上がる。三人は同時に、目を開いて彼を待つために、風の吹くバルコニーへと歩き出した。
「──あ、きた。」
少女が呟く。団長らは驚きつつ駆けていき、少し寂びれたバルコニーの手すりから身を乗り出した。が、そのうち一人は手を押し足をかけ、高いバルコニーを飛び降りた。
「・・・真田!・・・さなだーーーっ!」
朝の憂鬱は去った。夜型気味の雨宮も、翔る身体を止めなかった。呑気に手を振る生意気な相手を目掛け、一直線に走っていくのである。
「・・・お、雨宮か。少し見ないうちに・・・そうだな、いい顔になった。」
「なっ!再開早々、変なこと言うなっつの・・・。」
「変なこと・・・言った、か?まあそれより、修行の進捗だ。闘いごっこの準備は、バッチリ済んでいるのか?」
「そう、それ。メンバー不足で、絶賛崖っぷち。」
「そうか。」
後ろの影から視線を戻すと、奥から走って来る団長らが見える。王子の肩にはミニっ子が、得意げな無表情でまたがっていた。肩車の安定感を維持すべく珍妙な足運びをする王子は、やはり王子なのだろう。
「よお、団長。人手も無視して訓練に集中、・・・してくれると思ったぜ。」
一同は目を見開く。
「ああ!だがそれで人数が二人足りなくて、困り果てていたところなんだよ!」
期待を胸に、彼は不安をぶつけた。そして、俺はその不安を拭うために、ここに舞い戻ってきたのだ。俺はいつも通り、ニヤリと笑った。
「・・・偶然だな。俺もちょうど二人、人材を派遣しようと思っていたところだ。」
他人が持つ面白味のない悩みが、面白く解決されたらいいと、俺は本気でそう思うのである。




