67話 本当に度し難いです
「・・・・・・せん・・・」
「み、ミアさーん?」
「おかしい・・・です・・・!」
視界が揺らめき、心にずっとあった感情がこぼれ落ちる。なんというか、ふわふわした感じだ。今までなぜ、私は口をつぐんでいたのだろう。『秘密にしなければ』と思っていた何かが、確かあっただろうか。しかしこのモヤモヤ、あの男に関する憤りを隠す必要は、どこかにあっただろうか。
いや、ない。私が奴を追う任務に就いていることは、公になっていい事のはずだ。指令内容は始末から捕縛に変更されたし、目の前の第三騎士団長も彼を追い、私と同じく難航していたと聞く。
「あの男は、なんなんですか・・・!?」
「・・・へ?」
「騎士殺しと王宮荒らしについて、詳しく話を聞きたいと言っているのに・・・どうしてあの男は、ああも毎回逃げ切るんですか!?私は、自分がなぜこの任務についてるのかだって、もう分からなくなってるんですよ・・・!?」
頭に浮かんだものをそのまま口に出すと、少し心地いい。とにかく私は、立ち位置があやふやな彼女とあの男について、今は少しも考えたくないのだ。火照った顔を彼女に晒していることも、もうどうでもよくなっている。
「もしかして、ミアさんもあの人を追う任務を?」
「・・・他の騎士団員は、第一騎士団長の私がいるからと言って、さっさと身を引いてしまったんですよ・・・私の専門は戦闘、それも魔物討伐が中心だというのに、どうして毎日あんなのを追いかけているんですか・・・!」
ひりつくような夜風が、いつの間にか生暖かいものに変わっているようだ。私が思いのままにこぼした愚痴を意外そうに聞いていた彼女は、そこまで聞いてから口を開いた。
「それ・・・・・・すっごく分かります!!」
「・・・?」
「あの人相手だと、思うように実力が出せないっていうか・・・なんかむずがゆいですよね!」
「・・・!!」
私は目を見開いて、彼女への認識を定めた。この人は強い上に、いい人だ。私の気持ちを的確に言い表した彼女に、私は強い信頼感を抱いたのである。そうなってしまったが最後、私は辛うじてせき止めていた更なる感情に歯止めがかからなくなってしまった。
「そう・・・それです・・・!余裕綽々な顔をして、私を弄ぶみたいな動きをするんです・・・。」
「・・・いつも簡単に見つかるくせに、いざ追いかけてみると捕まえられないんですよね・・・私が力尽きたところに『焦るとなんも出来ないぞ』なんて言われた日は、寝る時まで思い出してムカムカしちゃいました。」
「・・・すぐ格好つけたがって、本当に度し難いです・・・!」
と、私と彼女は二人して語り合い、なぜか魔力感知に反応しないこと、最近は身体に触れられただけで身動きが取れなくなることなど、奴への不満を好き放題に吐露し合った。しかし最も不満なのが、その不満らがほぼ自分たちのせいである事だった。そして、それを互いに理解していたからこそ、このような話ができる相手が見つかった喜びが大きかったのだ。
「ミアさん・・・!」
「アイリス・・・さん・・・!」
互いの名を呼び合い、力強い握手が親愛の証となる。破天荒で規格外な彼女と意気投合したことが何より嬉しく、胸に合った重たいモヤモヤはすっかり晴れたようであった。そして、清々しさも極まったところでついに、私は急激に襲ってきた睡魔の誘惑に敵わず、そのまま重たい瞼を閉じた。
そうして楽しい宴の幕が下り、酒宴を楽しんだ戦士たちは各々の住処に帰っていく。その酔いがさめた頃に、彼らは覚悟することになるのだ。もうじき、知力と武力と誇りと信念と剣と拳を懸けた、壮大な闘いの火蓋が切って落とされるのである。
「あー!ミアだんちょったら、またぶどうジュースでよっぱらってる!」
「あれ、ミアさん酔ってたの!?・・・どうりで、前会った時と印象が違うなって思った。」
「スヤスヤねてるから、ミタネたちが連れて行くね!・・・むーちゃーん!!」
「呼んだか!?ミタネ副団長。」
「カイ君って、そんなキャラだったっけ。」
「いつもより浮ついてしまっているかもしれないが、祝う時は盛大に祝うのが俺の信条だ。何せ今日は、喜びを分かち合うべき日なのだからな。さあ第三の皆々も、共に喜ぼうじゃないか。メモ殿、よろしく頼む。」
「・・・みなみな、ごしょうわあれ。」
『メリークリスマス!!』




