64話 一刻も早く会いに行かねば
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「吸血鬼というのは、血を操る能力を持つ獣人族の事だ。獣人族の間でごく稀に生まれてくるそれは、ただ生命活動を続けるだけでも、普通の獣人とは比べものにならない量の血液を必要とする。そのくせ血液をつくる機能は他の獣人と同じだから、吸血鬼は多くの場合、生まれて間もなく死んでしまうんだ。」
「なるほど。・・・落とし物を拾って頂けただけでなく、このような世間話にも付き合って下さるとは。筆頭騎士のカイさんは誠実なお方だと、心に留めておきますね。」
「ありがとう。そう言ってもらえると、正直励みになるよ。・・・ところで君、最近どこかで会わなかったか?声に聞き覚えがあるような気がするんだが。」
「気のせいですよ。あなたのような人に会ったら、きちんと覚えているはずですから。・・・では私はこれで。今日はありがとうございました。」
「あ、ああ。」
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「・・・やはり、あれは君だったんだな。」
目が覚めたベッドの上、まだ痛む首を横に倒した先にいたのは、筆頭騎士カイ=ムラサメだった。
「ここは第一騎士団第七支部の医務室だ。君たちがいた噴水広場から五分ほど歩いたところにある。」
「コンビニか。さすが国家権力といったところだな。・・・んで、犯罪人の俺とあいつは今、どういう状況なんだろうな?」
ニヤニヤしながら聞いた俺に、カイは安堵の笑みを浮かべながら返した。
「怪我人は手当、迷子は保護だ。流石に、何も聞かずに釈放というわけにはいかないがな。・・・君も冗談が言えるほど元気になったのであれば、良かったよ。」
だがその表情はすぐに、真剣なものへと切り替わる。
「さて、もう話ができるのなら、教えてくれないか。・・・あの噴水広場で何があった?街灯はすべて破壊され、地面には抉れた跡と血の付いたナイフ、何よりも不可解なのが、血まみれの君にしがみついて泣いていた、あの子の事だ。」
この男の事だから、二人の内どちらかを裁かなくてはならないかもしれない、とでも思いながら、不安で胸を満たしているのだろう。眉間にしわを寄せてしまって、本当にまっすぐな男である。
「・・・分かった。俺の知る全てを、あんたに話そう。───」
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「そうか。彼女は吸血鬼で、今までのは全て暴走状態の彼女がしでかしたことだった。そして、君の魔法によって、もう彼女はそうならないと、そういう事なんだな?」
「・・・そうだ。」
筆頭騎士は大きく息を吸って、吐いた。
「・・・た。」
「ああ?」
彼は目を閉じて見上げ、静かに声を発した。
「それは、本当に良かった・・・!」
心底嬉しそうな、自由を肌で感じているような表情。他人を取り巻く悲劇が去ったことに、ここまで喜べる人物がいるだろうか。しかしまあ彼の眼は澄んで、喜ばしい限りである。
「・・・ああ、そうだな。」
まっすぐに、笑い返す。俺はまだ安心しきるべきではないだろうが、この時ばかりは素直に喜んでおいていいだろう。
「もう暴走しないというのなら、あの子を罪人として追う気もないな。幸いあの子についての手配書は貰っていないし、無罪放免で問題ないだろう。」
「そいつは良かった。・・・が、俺の方はどうするんだ?」
少し考えこんだ筆頭騎士カイ=ムラサメはこの時初めて、悪事を企てる小物のように笑って見せた。
「おおっと、いけないいけない。確か今日はミタネ副団長の茶会に呼ばれていたんだった。ああこれは急がないと、彼女の気分を損ねてしまうかもしれない。」
「いいのか?あんたは今、仇名付きの事情聴取をしてるんだぜ?」
「筆頭騎士として、仇名がついた罪人は見逃すわけにはいかない。・・・だが俺には、分からないことがある。いつもなら犯行場所、犯行時刻、犯行動機すらも詳細に記載されるはずの手配書が、君の物だけ曖昧なのはどうしてなんだろうな。特に君が第二騎士を殺した事件については、他の全ての情報がはっきりしているのに、動機だけが全く語られていない。推測すらも成されていないんだ。まるで、俺達に知られぬように、何かを隠しているみたいにな。」
彼は背中を向け、ゆっくりと扉の方に歩いていく。出口へ続く扉を開けながら、最後に俺に向けて言ったのだった。
「・・・だから、俺は今回に限って、己の目を信じることにした。今の俺にとっての君は、怪我人で英雄で、強力な好敵手だという事だ。」
「・・・っはは、そうかよ。」
「それじゃあ俺は行くよ。愛するミタネ副団長に、一刻も早く会いに行かねばならない。」
ミタネ副団長が誰かは知らないが、きっとたいそう可愛らしい相手であるのだろう。俺はカイの信念に感服しつつ、彼を見送った。




