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60話 ほんの少し解決することだ

強い風が吹く。正体を見破られた、むしろ最初から全てを知られていたことを悟り、赤髪の少女はフードをさらう風に抵抗の色を見せなかった。ボロボロのローブに返り血は付着していないが、彼女の首から上の赤は辺りの闇のせいで暗く、黒くなっている。


「ここまで来るのに、随分と苦労したぞ。何せお前の情報は、その手の連中はおろか、国家権力の第一騎士団長も知らなかったんだからな。」


そう、俺はこの半月ほど、一人の少女について熱心に嗅ぎまわっていたのである。方々を廻って得た『情報が無い』という情報を手掛かりに、俺はローカルな噂話と、そういったものも誠実に記憶する筆頭騎士カイ=ムラサメを必死で追い回した。遠回りも良いところだが、目の前で立ち止まっている少女こそが、その追いかけっこの答えだ。


「アンタ、やっぱすげーな。今夜ボッツを襲うなんて、あたし誰にも言ってなかったぞ。」


「・・・騎士団が手出しできないような悪党だけを狙う、猟奇的な通り魔。『名もなき義賊』のお前が潜伏している場所はハンサムな筆頭騎士が絞ってくれていたんだが、まったくもって、勤勉な野郎だよ。そこさえ何とかなれば、俺はおあつらえ向きの標的であるボッツだけを残して、候補に挙がる悪党を片っ端からしばきまわすだけで良かったってわけだ。」


「しばく・・・って、全員ぶっ倒したのか!?」


彼女が驚くのも無理はないのだが、この作業は俺にとって、大した苦にはならなかった。というのは、《俺が『総会』の役に立つことを証明する》という名目で、俺は『忍者』を経由して都合の良いデータを受け取っていたからである。もう一度言うと、総会は直接手の出せない連中のデータを、しっかりと持っていたのである。


「ああ。自分の都合だけで、思う存分に暴力を振るってきた。褒めて欲しくてやったわけじゃないのは、義賊のお前なら分かるんじゃないか?俺の目的は一つ、・・・お前のようなミニガキのお悩みを、ほんの少し解決することだ。」


「っ──!!・・・でもわりーな。今日はちょっと忙しいんだ。」


「だろうな。・・・さっきから息が荒いようだし、何か用事があるんだろ?・・・そういえば今日の獲物は、まだ傷だらけになっていなかったんだった。」


彼女が浮かべるあの表情、切羽詰まったような、とても苦しそうな表情は、おそらく事態の核と直結している。俺はそう確信して、彼女の様子を伺った。


「それは、明日にでも話すからさ・・・今日はもう、疲れたんだ。」


「おいおい、この前も同じようなことを言っていたじゃあないか。」


「・・・うるさいな、いいから今日は帰ってくれよ。」


「俺はもう追いかけないから、嫌なら逃げればいいだろう。それとも、どこか体調でも───」



「──いいから!!」


少女の声が響き渡る。音の波は地面向きに屈折しつつ伝わり、静寂もあいまって余計に耳に残った。彼女の呼吸は激しくなる一方で、うつむいた彼女の表情は、街灯の灯りだけでは見通すことができない。



「・・・・・・いいから、早くアタシから離れてくれよ・・・はぁっ、はぁっ、・・・そうしないと、手遅れになるから・・・!!」


顔を上げた彼女は、泣いていた。八重歯を鋭く尖らせ、獣のように息を吐きながらも、潤んだ赤色の瞳は美しく光っている。


「・・・はや・・・くっ・・・!!」


「・・・何故お前は、相手を傷だらけにするのか。そこだけが、ずっと気がかりだった。」


「はや・・・く、はや・・・クぅッ・・・!!」


「傷は全部、首筋に残った『本命』の痕を隠すためのカモフラージュで───」



「ッ──!!・・・・・・・・・・・・」



「──お前は、吸血鬼だったってわけだ。」


豹変して牙を剥く彼女の前で、俺は拳を握り固めた。

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