58話 団子を食うなら身軽な方が良い
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「あの時・・・か。あんたには随分と世話になったな。・・・それじゃ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
気絶させたチンピラ二人を引きずる俺に、彼女は制止の声をかけた。背中を向けたまま立ち止まると、彼女が大きく息を吸うのが聞こえる。これは彼女が緊張を隠すときの癖だという事を知っていたために、俺は振り向くことをしなかった。
「えっ、と。助けてくれてありがとう。久しぶりだね。」
「・・・ああ。」
「君には、助けられてばっかりだよ。」
「・・・そうでもないさ。」
しばらくの静寂の後、俺は再び歩き出したが、するとまた彼女は呼び止める。
「君がっ!・・・・・・君が置いていった『ショウユ』、団子のたれに使ってみたの!」
「・・・そうか。」
「お芋の粉でとろみを出してみたんだけど、それはもう大反響だったんだよ!」
彼女の新作が街中の人気を集めていることは俺もよく知っているが、彼女はおそらくそれを承知の上で話している。彼女は律儀で優しい少女であるから、醤油を持ってきた俺を持ち上げて、喜ばせようとしているのだろう。俺はその意図に応えるべく、彼女に返答した。
「・・・そいつは本当に良かった。わざわざすまないな。」
「待ってよ!・・・私がこんな服を着てるのも、いま生きてるのだって、全部君のおかげなんだよ?だからこそ、信じられないの・・・あなたが・・・人殺しなんて。」
彼女の声は震え出したが、それでも止まることなく、言葉は後ろから続いてくる。
「もし第二騎士の人たちをやっつけたのが君でも、何か理由があったんでしょ?騎士団についての情報はほとんど知らないけど、すっごく悪い人たちだったとか───」
「──相手が悪党でも、人を一匹殺したのは俺だ。・・・この間、王都が酷いことになったろう?もしかしたら、あんたも化け物になっていたかもしれない。・・・だが、それはあんたが悪いのか?」
「・・・っ!!」
「あんたは花畑を踏み荒らし、建物を壊して、人を呪ったかもしれない。・・・だが心ン中じゃ、必死に助けを呼んでたんじゃないのか?どうしても悪いことばかりする自分が、憎くてしょうがなかったんじゃないのか?」
俺は醜悪な肉塊と化した人間たち、目の光を失った王子の姿を想起して続ける。
「・・・悪さは弱さそのものだ。ぐちゃぐちゃになっても泣き叫び続ける弱者を、俺はあの時救わなくちゃならなかったんだよ。」
これからも理由があれば人を殺すし、信念に沿うなら嘘だって簡単につくだろう。しかし、そんなやり方しかできないような自分を肯定してしまうことだけは、絶対に避けるべきなのである。あの化け物を救えなかったのは、俺が弱かったからだ。自分が弱いということを、誇るわけにはいかないのである。
「・・・というわけだから、俺は当然善人じゃない。悪党を道連れにしているだけの、ただの死屍鴉だ。死人は放っておくのが吉だと、あんたはそう思わないか?」
そう返した俺に、彼女は予想外にも、涙ぐんだまま声を張った。
「そう、だね。でも・・・やっぱり君は優しい人だって分かって・・・本当に良かった・・・!」
「・・・話、聞いてたか?」
「聞いてたよ。・・・死人でもなんでも、私は君がいいの。・・・新作のお団子、食べに来てよ。とろとろもちもちの、自信作なんだから!」
斜めに差し込んだ日差しが、彼女の表情を照らす。俺は少し考えてから、掴んでいた男二人の襟を手放した。
「やめだやめだ。・・・こいつらは重たいから、ここに捨てていくことにした。」
「・・・!」
「・・・団子を食うなら、やはり身軽な方が良いな。あんたの自信作とくれば期待も高まってしょうがないから、やることが一通り終わったら、すぐにでも飛んでいかせてくれ。」
俺が下手くそに笑うと、彼女は綺麗に相好を崩す。
「・・・・・・うん!!」
去り際に片手を振って、俺はその場を後にした。




