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55話 血塗れの顔面で笑う

───────────



──────



「はあっ!!」


「クッ──!・・・アメミヤ君、今のはいいスイングだった!!」


「・・・たたかいごっこも、・・・ばっちり。」


第三騎士団廷。第一騎士団の敷地と比べると少し薄い芝の上、戦士たちは着実に力を伸ばしていた。『身体能力強化』の恩恵を受けた雨宮玲子は大剣、王子は長い片手剣を取ってぶつかり合い、少女メモは花壇の縁に置いたじょうろの隣に座りそれを眺める。


一方第三騎士団長はというと、今日も今日とて成果の振るわない勧誘に時間を割き、ついでに多くの人助けをしてから、とぼとぼと帰ってきたところである。


「今日こそはいい人、見つけられると思ったんだけどなあ。」


彼女の言う『いい人』は魂に一本の芯を有し、なおかつ一か月後に行われる強者どもの宴へと招かれてくれるような者のことであり、もちろんそのような人間は少なく、ゆえに彼女の勧誘は上手くいっていない。更にそもそもの話をすれば、彼女は責任感が強いだけに、人に頼ることが得意ではないのである。信頼関係を築いてから頼るかどうかを綿密に判断する彼女は、初対面の相手に協力を乞う勧誘に向いているはずもないということだ。


「あ、だんちょう、帰ってきた。・・・おかえり。」


「ただいま、帰りました・・・。」


誰が見ても疲れていると分かる様子で、彼女は歩いてきた。


「アイリス君・・・新たな騎士団員を抜擢するのは君にしかできないとはいえ、もう少し肩の力を抜いていいんじゃないか?決定はできずとも、推薦する形であれば僕たちも助力できるだろう?」


「頑張ってるみんなに甘えるわけには・・・。」


弱る団長に次の一言をかけたのは、少女メモだった。


「・・・だんちょうは、たたかいごっこしない?」


「うぐっ!」


無邪気な質問がクリーンヒット、完全に図星を突かれた彼女は、ずっと勧誘とパトロールに掛かり切りだったここ数日、そして第一騎士団長に打ち負かされた去年のことを想起する。きっと今も、あの桃髪蒼眼の彼女は剣術の腕を磨いていることだろう。あの時の悔しさは、そう簡単に忘れられるものではない。だが、今自分が訓練に励んでしまったら、きっと雪辱を晴らす機会すら訪れてくれないだろう。


八方塞がりの現状を目の当たりにし、目に見えて落ち込んだ彼女だったが、眼前の小さな少女は彼女の服の裾を掴んで続けた。



()()()、いま何してる?」


その代名詞がどの人物を指すか、彼女らは一瞬で理解し、そしてハッと息をのんだ。


「そうだ、彼がいるじゃないか!!」


希望に満ちた声色で、王子は空を見上げるように頭を上げて言う。次に掘り起こされるのは先日の宴の記憶、確か彼は、新たな仲間が何のためにあと何人必要なのか、入念に確認していたではないか。そこから確信を得た王子は、それを確かめるように問いを立てた。


「あの男は、どういう奴だと思う?・・・少なくとも僕は、茨にとらわれたドブネズミを救い出して、血塗れの顔面で笑うような奴だと思うね。」


呪いの連鎖にとらわれた王子は、もういなかった。


「いたいのを、ぜんぶ持ってく・・・・・・かほごな、まほうつかい。あとはきちがい」


「メモちゃん、そんな言葉何処で覚えてきたの!忘れなさい、めっ!」


じきにやってくる痛みに怯える少女メモは、もういなかった。


「どうだろ。・・・汚れ役が大好きで、お節介で馬鹿。・・・・・・で、多分信じられないくらい強くて、たまーにすごく・・・。いや、強い。」


雨宮玲子という女は、地獄の記憶を覚えていない。



自らが抱えていた苦しみ、どうにもならないことに風穴を空け、ニヒルな笑みを浮かべながらどうにかしていく男、それが彼女らの彼に対する共通認識だった。第三騎士団長アイリス=ミリオンはこの瞬間、強力な助っ人に頼りながら前を向いて歩くという、単純で非常に困難な希望を思い出す。


「・・・そうだった。」


彼女は小さく呟いて、そして見上げる。


そうだった。あの人は、空の雲がよく似合う人だった。


自分の小ささに嘆く第三騎士団長アイリス=ミリオンは、一旦はもういなくなった。


──────────



─────


そうして彼女らは、適材適所という理由によって、俺に仲間集めの職務を任せきりにしていたらしい。

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