49話 一騎当千の単独騎士団
広大な第一騎士団本部の敷地内には、よく手入れされた植木に華やかな噴水が見える。陽光をよく浴びた健康的な芝の上を走ってきた少女は、無邪気で純真な笑顔を向けた。
「あ!おかえり、ミアだんちょ!!今日は何して遊ぶ?」
「・・・・・・ミタネ副団長。・・・そうですね、お茶を一杯飲みたい気分です。」
「わーい!それじゃあ、クッキー焼いてくるね!」
はしゃいだ様子で駆けて行った副団長の活気にあてられ、彼女は思わず息を溜め込んでからこぼす。情けない、やるせないといった感情をいっぺんに集めていた彼女の瞳には、あの純粋無垢な笑顔は少々眩しすぎるのだ。彩られた花壇を眺め、それでも癒えない憂鬱に対して、さらに寂寥感を膨らませてしまってから、彼女は重たい足取りで拠点へ向かった。
城塞のような騎士団本部の、様式の整った白いバルコニー。円形のテーブルには二人分のティーカップが、香り高く空間を染めているようである。柵に巻き付く形で育ったアイビーは上品な白と緑を、日陰ではそっと、日向では生き生きと映し出す。静かでふんわりとした空気感、その中心に混ざり気のない笑顔を一つ見たともなれば、彼女が今まで感じていた憤りはさすがに、透き通る風と共に流れ去っていった。
「・・・。ここは、やはり落ち着きますね。」
少女が淹れてくれた、しっかりと甘い紅茶を一口飲んで、そのカップを置く。自身が何に腹を立てていたのかを疑問に思う程に、第一騎士団長は心が落ち着いていくのを感じた。悠然とした立ち振る舞いで、小さくまとまったケーキに銀のフォークを通した彼女に、目の前の少女は笑顔で話しかける。
「ミアだんちょ、おいしい?」
「ええ。あなたが焼いてくれたクッキーも、このケーキに負けないくらい美味しいですよ。」
「ほんと!?ミタネもね、そう思う!!あ、そうだ。ミアだんちょ、あさ言ってたわるものはどうだった?───」
──陶器の皿が、痛烈な音を響かせる。
「そっ、・・・その話は・・・・・・また今度にでも・・・」
「だんちょ、だいじょうぶ?」
「え、ええ。全然問題なんて、これっぽっちもありませんよ。・・・そ、そんなことよりっ。・・・今年も、あの時期が近づいてきましたね。」
「『あのじき』って?ミタネのたんじょうびパーティーはこないだやったし、なんかあったっけ?」
傷口に塩を塗られたような感覚を誤魔化すように、彼女は咳ばらいをしてから口火を切る。
「『騎士団対抗戦』。選抜された騎士団の精鋭がルーン武器を使って模擬戦を行う、あの一大イベントですよ。」
「あ!あのすっごく楽しいやつだ!」
「騎士団の実力を見せることで、人々の理解と安心はより一層深まります。騎士団の強さを知らしめることは、馬鹿な悪者が出てくるのを防ぐことにもつながりますから、私たちは大衆の前で力を発揮できるよう、日ごろの鍛錬に拍車をかけなければなりませんね。」
彼女はようやく本調子を取り戻した様子で、持ち前の真面目さを言葉に乗せて放った。
「ふふーん、ことしは何人やっつけられるかなあ?」
「年が経つにつれ、騎士団全体の実力が高まっていますからね。去年も強者揃いで白熱しましたし、私たちも油断していると、足元をすくわれてしまうかもしれません。・・・筆頭騎士のカイ君やあなたも相当な実力の持ち主ですが、第二騎士団の魔法部隊や第二騎士団長本人の強さは、ミタネ副団長もよく知っているでしょう?・・・・・・ですが、その誰にも引けを取らない化け物を、あなたも見たはずです。・・・今年も出てきますよ、あの人が。」
闘技場の大歓声と怒涛の激戦が想起され、穏やかな雰囲気を保っていたバルコニーの空気がひりつき始める。
「・・・・・・驚くべき底力を見せて連勝し続け、ついには決勝まで勝ち抜いてダークホースとなり、人々から『騎士団』だと信じ込まれるほどに、たった一人ですさまじい功績を上げてしまった張本人。誰よりも警戒すべきなのは、『一騎当千の単独騎士団』、あの第三騎士団長アイリス=ミリオンをおいて、他にいません。」
はっきりと言い切った第一騎士団長は、その瞳に蒼い炎を宿しながら、カップの下の方にたまった砂糖ごと口に含み、その紅茶を飲み干した。




