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48話 どうしろって言うんですか

「っ・・・距離が詰めれない・・・!!」


「そんならさっさと撒かれちまえばいいものを・・・朝のランニングなら十分だろう?」


縦横無尽に逃げ回ること一時間、辺りにはぽつぽつと人影が見え始める。路地裏に廃墟の外廊下、視界が悪い分を土地勘で補う俺を捕らえられないまま、第一騎士団長の体力は限界を迎えてきているようだ。疲労で顔を引きつらせた様子の彼女を見る限り、そろそろ仕掛けても問題なさそうである。


「そろそろ飽きたから、仕上げといくかなッ・・・!!」


両足を揃えて跳び上がり、雑貨屋のロゴがかたどられた鉄看板を掴む。大げさなアクロバットを見せびらかすようにして宙を舞い、俺は軒先に足を着けた。


「ハイステップ・・・!」


小賢しいと言わんばかりに、彼女は小細工もなく数メートル跳び上がって追走する。しかし、向こう見ずな跳躍に生じた隙を、俺が見逃してやる理由はなかった。


「・・・これで、今日は解散だ。」


気だるげに頭を掻き、彼女の落下予測地点で身構えてみせた俺に、彼女は空中で、それも瞬時に剣を引き抜き、その刀身を白く輝かせて唱えた。


「っ、させません・・・空刃(エアード)・・・!」


目にも止まらぬスピードと言うべきか、コマ送りの始めと終わりだけを見せられたかのように、既に剣を振り切った彼女の姿だけが目に映る。次の瞬間には凝縮された空気の刃が、景色を歪めながら強襲していた。


「バインド・・・警戒すると思ったぜ。───」



──爆ぜる空刃。劣化した瓦を吹き飛ばしながら、現実味のない風圧が巻き起こる。


彼女とその中心を挟むように位置取った俺は、弾ける空気に身を委ね、深く踏み込んでいた足に溜めていた力を解いて放った。


「なっ──!?」


「他力本願ハイステップってやつだ・・・じゃ、またな?───」


──猛烈な風圧が、追い風となって背中を押す。背中を反らせる形で見た空は空のように蒼く、風と一瞬の一体感、朝日はもう太陽へと変化しているようだ。


「・・・っと、浸ってる場合でもない、かッ──!!」


広い弧を描いた先は無慈悲な瓦板、衝撃をそのまま受け止めて無傷で済むほど強靭な身体は持ち合わせておらず、もちろんのこと、自らが出せる最高速度を軽々と超えるこの速度を容易に制御できるはずもない。俺は洞穴の時と同じく、細やかな傷を気にせずにガンガンと、文字通りガンガンと受け身を取る狂戦士スタイルを貫くしかないのである。


転がること数秒、超一流の体操芸と見分けがつかない程激しい動きで、俺は軒先から転がり落ちることになった。



だがその真下にはちょうど、独り言を溢す人物が歩いているのである。


「騎士団への信頼を損なわないためーって、上手く丸め込まれちゃったけど・・・これじゃ、あの人が泥被ったままじゃないのさ。・・・はぁ、騎士団長の私にできる事って、思ってたより少ないのかな───」


「──クッ・・・!!」


「きゃあっ──!!」


各所に鈍い音を響かせながら落下し、緩衝材にもならない廃棄物の山に不時着する。ため息をつきながら体を起こすと、もう驚いてやるつもりなどないが、驚くことに、目の前にいたのは茶髪紅眼の第三騎士団長だった。


「・・・ああ、また会ったな、団長。・・・・・・はぁ、今の今まで生きた心地がしなかったよ、ほんとに。」


壮大な逃走劇のフィナーレを終えた俺は、ありのままの感想を口に出して笑う。


「ぇ・・・・・・って、はぁっ!?」


暗い街路の中、団長の愉快な表情が、昼間に差し掛かった空と共に映った。



─────────────



───────



任務失敗の帰り道、彼女はほんの少しだけ肩を落として、その蒼い瞳を街道の石畳に向けながら呟く。


「・・・あそこまで読まれてしまうなら、私はどうしろって言うんですか・・・。」


つい先ほどまで自分の都合で追いかけまわしていた逃走者は、既に見失ってしまった。わがまますら全うできなかった自分は、大人しく一度騎士団本部に戻るべきなのである。そう分かってはいるが、彼女はどうしても納得できずに、地面に向かって弱音をこぼしていたのである。


「大体、あの魔法はなんだって言うんですか。効果の切れないバインドなんて、どう考えたって反則です・・・」


どう考えたって反則と、彼女はそう口にしているが、そうなるとやはり、逃走する賢者の工夫を強引にねじ伏せていた自分の事などは、とうに忘れ去ってしまっているのである。いや、もしかすると覚えていたかもしれないが、とにかく彼女は今、不利な状況の中で何とかうまくやった相手と、大変に有利な条件であったにもかかわらず、それでも尚してやられてしまった自分とを、どうしても認めたくはないのだ。



第一騎士団長という格式高い地位についてからというもの、その誇りのために愚痴などこぼしたことはなかったはずだが、どうにもおかしい。追憶にあるあの顔を思い出すだけで、どうにも感情が荒ぶってしまう。初めて会った時も、今さっき逃げられた時も、あの男は余裕の笑みを見せていた。


「・・・っ、なんでこんなにイライラしてるんですか・・・私は・・・!」


その表情が頭から離れず、懐の鞄に入った肌触りの良い毛布を心底恨めしく思いながら、彼女は落ち着きのない様子で門をくぐった。

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