47話 そいつは愉快なお友達ってな
翌朝、朝食と身支度を終えた俺は、人通りのない街路の索敵も滞りなく済ませ、青白い日が朝を告げる少し前に基地を出た。欠伸を一つつくと、色づき始める空への喜びと全身を重くしたままの眠気が、同時に同じ質量を持って覆いかぶさってくるようである。
「・・・早起きは好きじゃないんだがな。全く、有名人は困り者だ。」
住所特定だの、突然の逮捕劇だの、人が増える日中にねぐらを出ることは厄介なことばかりだ。そう考えれば、リスクを減らすために早起きをすることは、効率が良いとも言えるだろう。しかし俺が主張したいのは、パフォーマンスうんぬんの話ではなく、朝は眠いからもっと寝ていたいという、至極素直な幸福追求なのだ。だから、とどのつまり、有名人も困り者だが、寝るだけで幸せを感じる幸せがあって、それが現実的な生活に納まりきってくれないことこそが、根っこのところにある一番の困り物なのだろう。俺はそう結論付けてから、誰に向けるでもない恨みを二度目の欠伸としてこぼした。
「今日の暇つぶしは・・・、順当にいけば、情報収集か。」
あの赤髪の少女をもう一度探すにしても、俺を追っている『総会』について調べるにしても、現状では情報が足りなすぎる。無策も愉快な策だとは思うが、首を突っ込む対象くらいは見据えておきたいものだ。そもそもの話をすれば、一般市民、並びに貧民街の住人達が俺を見てどう思うのかすら、俺は把握できていないのである。
確か呪術の騒動は、茶髪紅眼の第三騎士団長が邪竜を倒し王子も救った、という事になっていたはずだ。そこまでは分かるが、その場合、俺の立ち位置はどうなる?第二騎士のエリートを撲殺した重罪人が、そう易々と英雄の一味に加われているとは思えない。俺は呪術に関与しなかったことになっていると考えるのが妥当だが、あのお人好し共がそれを黙認しているという状況も、それはそれで考えにくいように思えた。
「疑問は残ったままだが・・・、まあ、解消しようと動き出した時点で、そいつは愉快なお友達ってな。」
駆け出した俺の足は軽く、頭は健康に回っているようだ。人が起きてくる気配もなく、万が一屋根の上を駆け回る俺を目撃されたところで、追いつかれてどうこうされることは愚か、住処を特定されることもないだろう。快調も快調、この調子で走っていれば、団長を発見、というより団長に発見される形で、ことが上手く運ぶかもしれない。団長自身に事情を聴いてしまうのが、俺の疑問を解消する上で一番手っ取り早いのである。そういう理由で、俺は衛兵への警戒を徹底しつつも、貧民街の中でも物の売り買いが盛んな方向へと進んだ。
団長を捜索することも含め、今日は貧民街を跳び回ってみるのが良さそうだ。まあ団長に関しては、放っておいても俺を見つけるだろうし、今日は気を張らず、のんびり気ままに動くというのも──
「──ッ、手遅れか・・・!!」
楽観的なことを考えてしまったが最後、気づいた時には既に、銃弾の如き勢いを持ったそれは、確かに俺の脳天へと迫っていた。
「──やっと、見つけました・・・!!」
「・・・団長、そっちじゃあないだろうよ・・・!!」
淡い桃色の髪と、澄んだ早朝の空を凝縮したような瞳。その胸当ての下に優しさを隠している、うら若き第一騎士団長である。
「・・・ステップ・・・!!」
口に出して意識を集中させ、俺は即座に自分に持てる全速力を以て逃走する。
「っ、待ちなさ──」
「──待つわきゃねぇだろ・・・!」
昨日の今日であの逃走劇は、さすがに心身への負荷が大きすぎる。馴染みのある貧民街であれば、多少は俺も立ち回りやすくのだろうが、忘れてはならないのが、相手は学習能力が高いタイプの化け物である、という事である。バインドでの不意打ちも昨日種を明かしてしまったし、条件は良くなるどころか、むしろ相手が対策した分だけ悪くなっているだろう。
「・・・っはは。・・・こいつは、退屈しなさそうだ・・・!!」
今日も今日とて明るい一日を始めようとする空に、俺は苦笑いを浮かべたままで、少々強気な皮肉を吐き捨ててやった。




