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44話 ガキの内は大人しく

「あー、くったくった。あごがちょっと疲れたけど、美味かったよ。ごちそうさまっ!」


「それじゃ、俺はそろそろ動くとするかな。・・・王都の西門付近にある貧民街にいるから、用があれば気軽に呼んでくれ。」


満足感を惜しみなく表情に出した彼女に一言残して、名残惜しくはあるのだが、俺は街道の人通りを確認すべく腰を上げる。


「ちょ。ちょっと待てよ!!」


「・・・どうした、食べ足りないか?」


と言ったのは、小動物のように食物をむしる愉快な姿を眺めることも含め、もう少し話し相手のいる夜というやつを堪能したいと思っていたからだ。


「ちげーよ!・・・ただ、あんたはなんも聞かないんだなって思っただけだ。」


「・・・こいつは失敬、俺ばかり話してしまったな。好きな逃走経路でも、聞いておくべきだったか。」


そろそろ消えかかる焚火の炎の前に、俺は再び腰を下ろした。雑談の続き、今度は彼女の武勇伝でも語ってもらうつもりだったが、彼女は少しセンチメンタルな気配を醸し出しているようだ。


「そ、そうじゃなくてっ・・・、なんでここにいるのかとか、なんで耳が生えてるのか、とか・・・。」


「・・・もちろん、興味ならあるさ。だが、俺から質問するのは野暮ってもんだろう?気持ちのいい理由でこんな生活をする奴も、わざわざフードまで被って隠してる耳について、無神経に詮索して欲しいと思う奴も、滅多にいたもんじゃない。長居して警戒させるのもばつが悪いし、何も聞かずに立ち去るのが小悪党なりの流儀、ってなもんだ。」


俺はそう答えて、小悪党さながらの笑みを作ってみせる。


「・・・・・・へんなやつ。」


「話したいってんなら、ありがたく聞かせてもらうがな?」


「・・・うーん、お腹いっぱいで満足したから、今日はいいや。」


焚火の灯りは徐々に小さくなり、フッと消えてしまったようだ。それを境に立ち上がると、少女はまた困り気味に笑い、耳をそわそわさせて言った。


「その話は、またこんどにでもしてやるよっ!だからあんた、とっ捕まったりすんなよな!」


「・・・ああ。お前も随分と苦労してるようだが、ガキの内は大人しく、頼れる奴には存分に甘えると良い。」


「ガ、ガキなんかじゃねえ!獣人族は身体の大きさにばらつきがあるだけで、あたしはこう見えても───」


彼女が大きな声を上げたことで、まだ街道を偵察していなかった俺が懸念していたことは、その瞬間に最悪の形で実現する。


「──上に誰かいるのか!?」


「──うわっ、やば!」


夜間徘徊の衛兵騎士。下級兵より応用の利いた動きをする、相手にするとかなり厄介な存在である。緊迫した空気が辺りを包む中、赤髪に獣耳を生やした少女は黒いフードを深々と被った。


「あいつは俺が相手してやるから、逃げるならさっさと行くんだな。」


「でもあんたは・・・!」


「俺は訳あって魔力感知に引っかからないから、仲間を呼ばれても逃げ切れる自信がある。犠牲じゃなくて適材適所だから、安心して逃げるといい。・・・今度会った時は、しっかり話を聞かせてくれよ?」


「あ・・・うん、わかった」


俺は腰に付いた鞄の紐を強く締め、洋瓦の屋根を飛び降りる。彼女はフードを押さえ、後方に走っていったようだ。


「それじゃ、達者でな。・・・っと。」


ポケットに両手を突っ込んだまま、鉄の街灯の上に着地する。兜の衛兵はこちらを見上げ、白いスカーフが結ばれた鞘から剣を引き抜いた。


「そこで何をしていた!人々の安全を脅かすような悪党なら、容赦はしないぞ。」


「・・・よく見るとあんた、こないだ迷子のミニガキを連れていた騎士じゃないか。街の安全パトロールとは、またご苦労なことだな。」


「何をしていたかを聞いているんだ、答えてくれない限り、俺は君を捕まえなくちゃならない!」


若く通りの良い声を持つ彼は、俺にとっては珍しい「まっとうな騎士」という奴だ。明らかに不審な動きをしている俺を相手にしても、言葉の中に優しさを残しているようである。


「・・・星空を見ながら、晩餐を楽しんでいたところだ。」


「・・・。なら、話していた相手は友人か?」


「・・・まあ、そうだな。」


俺がそう返すと、彼は考え込む様子を見せてから、落ち着いた口調で話し始める。


「近頃この辺りで、凶悪な犯罪人の目撃情報が上がっているんだが、君は何か知らないか?刃物のようなもので街ゆく人を傷つける、物凄く危険な通り魔なんだが・・・。」


「・・・世情に疎くて、そういった情報は聞かないな・・・。どんな奴なんだ?」


俺がこの辺りまで来たのはごく最近の事だし、流石に俺のことではないだろう。そう思って正直に答えた俺に、その騎士は真剣な表情で答えた。



「──深紅の髪と血染めの瞳、低い身長で素早く動く、獣のような少女だよ。」

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