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41話 飯を美味そうに食える

「なんで・・・動け、ないっ・・・!!」


相手の身体の動きを完全に封じる無属性魔法を、細い腕に向けて発動する。元々効果時間が短いうえに、俺の場合更に短縮されているようだが、継続発動してしまえばいいだけの話なのだ。先の魔術師のように遠距離運用することこそ敵わないが、触れている間は問題なく相手を完封できるわけである。

斜めに張られた瓦屋根に彼女を倒すと、俺はしばらく止めていた息をようやく吐きだした。


「はぁッ、はぁっ・・・今、躊躇したよな・・・!!自分の正義に従ってるだけなら、あんたは人を斬ることを躊躇ったりしない、違うか・・・!?」


彼女は仰向けのまま、その瞳を微かな涙で揺らしている。


「くっ・・・離して、くださいっ!」


「・・・それなら、あんたは自分自身のためにも、信念に反する総会側の判断に従わなければならない理由があるってことだ。・・・言ってみろ、『総会』ってのは俺の敵のようだし、場合によっちゃあ協力するぞ・・・。」


「くぅっ・・・ぅぅうっ!」


彼女は涙の粒を大きくしてこぼすのみで、その理由を答えることはなかった。「あなたには関係ない」と言うわけでもなく、ただ苦しそうに声を抑える彼女を見て、俺は心の内に決意を固める。

合理的だがひどく冷たい議決、圧倒的な強制力と徹底ぶり、第一騎士団長の優しさを縛る『何か』と、仲間外れの第三騎士団。

『王都総会』という組織には、間違いなく裏がある。そしてそれは、今まさに、正義の心を宿す彼女を苦しめているのだ。


「・・・あんたが黙っていようが、知ったことじゃあない。・・・俺は総会の『裏』を暴くぞ。」


「っ──!!」


「止めたきゃせいぜい、俺を捕まえるべくもがいてみることだ。・・・だが悪いな、俺は『かくれんぼ』に『おにごっこ』、幼稚な遊びは得意なんだ。」



彼女にそう吐き捨て、首筋に当身を喰らわせて気絶させる。滑り止めも兼ねて毛布を羽織らせ、俺はその場を後にした。



「・・・と言っても、追いかけっこは当分ごめんだがな。・・・多少リスクはあるが、身を隠すならあの貧民街に戻った方がいいか・・・。」



しばらく路地裏に隠れ、日が落ち、人通りが減ったタイミングで屋根に上る。少し顔を出して索敵すると、街道をまたいで反対側の屋根が何やら光っている。光り方からすれば灯りの正体は火、黒く影が揺れているのを見る限り、屋根の上で火を焚いている奴がいるようだ。相手が火の近くなら、暗がりの俺が発見される心配はないだろうとの思いで、瓦屋根に乗った俺は静かに伏せて様子を伺う。


「なんだぁ?あいつは。・・・小さい子供、か?」


見れば、静まり返った家の裏、夜風吹き抜ける月夜の中で、フードを被った子供が何かを頬張っている。斜め向きの屋根で手際よく焚火の世話をしているため、よく屋根の上で火を焚くタイプの人種であると考えるのが妥当だ。屋根の上でこっそりと火を焚くことのメリットは、真下の街道からはネズミ返しによって視認されないこと、路地裏より煙がこもりにくく、立ち昇る煙を周りにある煙突のものに紛れさせることができること、そして何よりも、甲冑を来た衛兵はわざわざ屋根の上を向くことをせず、見つかる心配がない事である。


「同業者にしても警戒したほうが良いんだろうが、にしても美味そうに食いやがる・・・。」


顔はフードで隠れてよく見えないが、見た目は十二歳前後といったところか、ちまちました所作に毒気を抜かれた俺は、威嚇歩で音を殺しつつ、そいつのいる屋根へと飛び移った。


「・・・よぉ兄弟」


「──んむっ!!ももむも!!」


俺が背後から話しかけると、黒いローブを纏ったそいつは焦った様子で立ち上がり、口にイモ類を加えたままで、小さなナイフを持って身構える。


「んんぅ・・・!!」


「──まあ落ち着け。・・・それ、ソロサムの茎だろ?そこら中に生えてるから、俺もよく引っこ抜いて食べてるよ。」


ゆっくりと両手を上げながら伝えると、彼女は落ち着きを取り戻し、再び味付けのされていない芋を咀嚼し始めた。


「・・・んぐっ。・・・・・・、アンタ───」


──一なびくローブの布音。後ろから流れてきた強風に襲われ、そいつが深々と被っていたフードはバサリと音を立てて脱げる。


「・・・・・・お前・・・!!」


「っ──!!」


目の前に姿を現した少女、赤色の髪に紅の瞳、それだけでも十分特徴的だと言うのに、そのどれよりも異質な存在感を放つ、頭頂部についた狼のような耳。・・・再び焦りを露わにした彼女に、俺少し驚愕しながら言った。


「よく、焼いただけのソロサムを美味そうに飲み込めるな・・・!」


「・・・は?」


「・・・だから、俺は割といけると思うようになったが、その芋えぐみがあって後味が悪いだろ?それを嬉しそうに一飲みとは、ガキにしちゃいい根性してるじゃあないか。」


「は・・・はぁ!?」


唖然とする彼女に笑いかけながら、俺は続ける。


「安上がりな飯を美味そうに食えるってのは、他に代えがたい才能だ。・・・足ることを知っている、満足できる奴ほど、生きる力が強いとすら言えるな。」


息つく暇も与えずに畳みかける俺に、彼女はようやく観念したように溜め息を吐き、やがてゆっくりとその口を開いた。


「・・・アンタ、急にきて何言ってんだ・・・。ほんと、いみわかんねー。」


彼女は困った表情の中に少しの笑みを見せ、その時初めて、その顔の印象が俺の内に、強く鮮烈に刻まれたようだ。

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