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38話 見える世界は汚いままだぞ

岩に布をかけたものに座って夕食を取った後、俺は綺麗にした小鍋と食器類を団長に手渡して言った。


「・・・そういえば、あんたが寝てる隙に鞄の中身を漁って、悪かったな。」


「そんなの今更言ったって遅い。あれもこれも、ずっと使ってきたんでしょ?私もう新しいの買っちゃったし、それ、鞄ごとあげる。」


団長は真新しい革製の鞄を見せながら気前よくそう答えて、彼女の腰に二つあるうちのもう一つ、俺が()()()()()鞄を差し出した。


「・・・本当か?ありがたい、こいつがあると本当に助かるんだ。・・・俺が集めたものの中に、何か礼になるものがあると良いんだが・・・。どうにもガラクタばかりだな・・・」


「そ、それなら、そのお礼の意味も込めて、こんど二人で出掛け───」


「──お、良いものがあった。・・・団長、こいつを受け取ってくれ。」


また俺に気を遣いそうな団長を遮るようにして、俺は以前倒した竜の雁首を左手で取り出す。


「これ、って・・・・・・?」


「氷魔竜とか言ったか、生きるために仕方なく叩き切ったんだが・・・この宝石を剥がして売るなりすれば、大分金の足しになるんじゃないか?」


団長は悶絶して複雑な表情を見せた後に頭を抱え、細い唸り声を上げた。しばらくしてようやく、それを無言で受け取ったかと思えば、彼女は氷魔竜の首を自分の鞄に突っ込んだその手で毛布を取り出し、即座にくるまって地面に寝転んだ。


「・・・寝る。」


「急にどうした・・・それじゃまだ不満か?」


「うるさい。」


「・・・そうか。なら、俺もそろそろ寝るとしよう・・・。」



「・・・・・・ありがと。」


団長は最後にそう呟き、俺は尚更訳が分からなくなりながらも、気を抜いた途端襲い掛かってきた強烈な睡魔によって、考え事をする暇もなく眠った。



───翌朝、高峰を文字通り駆け下りた俺と団長は、魔物から逃げているわけでもなかったが、昇る朝日を背に草原を駆け抜けた。爽やかとは言い難い向かい風は退屈を感じさせず、メモの空飛ぶ箒よりかは遅いものの、その風は清々しい疾走感を運んできた。


だと言うのに、である。


「なんだぁ?あの物騒な連中は・・・」


ようやくたどり着いた王都の関所、仰々しい石壁の門前には、鉄の甲冑を見に纏った集団が整列している。指揮官らしい人物の肩には見覚えのあるエンブレム、しかしその色は金だ。魔物を追っているわけでもないだろうに、重々しい空気を漂わせている。臨戦態勢というか、剣を既に引き抜いている者すらいる始末だ。


「あれ・・・第一騎士団長だ・・・!実際に見たのは初めてかも・・・。」


「・・・騎士団長同士、お茶会でもしてるかと思ったけどな。どうやらあいつも、年端もいかない女の子みたいじゃあないか。」


「うっ・・・。第三は弱小だから『総会』に参加できなくて・・・ああもう!なんかみじめな気分になってきた!!」


昨晩の事もあってか、団長の口調が少し柔らかくなっているようだ。その俺は愉快さを表情に出しながら、堂々と集団の元へ歩いて行った。華美なマントを羽織った指導者の下へ近寄ると、そいつは指揮台に乗ったまま、さも不快そうにこちらを見下ろして言う。


「待ちなさい。・・・誰かと思えば、重要指名手配の殺人犯じゃないですか。自首しに来たんですか?」


「第一騎士団長なんだったら、どうせ色々と掴んでるんだろうと思ったがな。それとも、そのエンブレムはお飾りのガラクタだったか?」


俺がここまで挑発的に口火を切ったのは、ことをうまく運ぶための退屈な理由がいくつかあったが、それらはほとんど副産物に過ぎない。後ろで慌てふためいている愉快な団長が、呪術の一件で重荷を背負うことになってしまったことへの腹いせ、というのが本音だ。第一や第二の騎士団が異変に気づき、もう少し早く動いていたなら、彼女はあそこまで苦しい思いをしなくても良かったはずなのである。俺は団長を見てから振り返り、再びそのすまし顔を睨んだ。


「・・・王都があんなになってる間、あんたら何してた。天下の第一騎士団様のことだ、まさか揃いも揃ってへたり込んでたわけじゃないんだろう?」


「安い挑発ですね。あなたは知らないかもですけど、人には限界というものがあるんですよ。それに私たちは今まさに、諸悪の根源を絶つため隊を編成したところなので。」


「・・・そ、そうか。しっかり前向きに行動したみたいで良かったよ、いや良かった。」


俺が少しの隙を見せると、彼女は微かに笑みを浮かべ、瞬時に返答する。


「かくいうあなたは、一体なにをやったと?・・・理想論ばかり語っていると、御託を並べるだけの役立たずになってしまいますよ。」


「・・・浅いな。優秀だから周りを見下す、実に退屈だ。現実論ばっか語ってると、見える世界は汚いままだぞ。」


俺は顔を真っ青にした茶髪紅眼の団長を引き連れ、彼女の手を引いて指揮台に上り、その場にいる全員に聞こえるよう言い放った。


「言っておくが、もうご執心の王子様は呪いを解かれ、憎悪の邪竜も倒された。・・・ここにいる第三騎士団長、アイリス=ミリオンの手によって・・・な?」


「っ──!!」


すました顔を羞恥に歪ませた彼女を鼻で笑い、俺は唖然とする甲冑の隊列の中央を突っ切って歩く。王都の門をくぐり抜けた後、俺が茶髪紅眼の団長にこっぴどく叱られたことは、やはり誰に対しても黙っておくこととしよう。

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