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34話 身に纏う意志の方だった

耳をつんざくような轟音、暗闇を統べる憎悪の邪竜を前に、蘇った勇者は膝をついて叫ぶ。


「僕はまた・・・取り返しのつかないことを・・・・・・僕はッ!!!」


自らを死の淵から救い出した男の心臓を突き刺し、その命を奪ってしまったと、王子は鮮血を浴びた剣を握りしめ、怒りと悲しみに打ち拉がれる。こちらに歩いてくるあの女性は、あの男の恋人だったのだろうか。だとしたら、彼女の愛する恋人を殺してしまったのは自分だと、伝えなければならない。彼女の怒りも悲しみも、全てを受け止めて、償わなければならないと、彼はそう思った。しかし不思議なことに、目元の腫れた彼女の瞳は、まだ潤んでいたのだが、少しの曇りも見受けられない。恋人の無惨な亡骸を見て、胸が破れるほど涙を流していただろうに、彼女はその紅い瞳に確かな決意を宿しながら、困惑する王子に言った。


「上を向いてください。復活したあなたが邪竜に食い殺されるために、あの人は命を懸けたわけじゃないです。『憎悪の邪竜』を倒すために・・・私も一緒に、闘います。」


彼は立ち上がり、再びその剣を構える。べったりと付着した鮮血に心を揺らしながらも、かつて自分の身体を引き裂いた巨敵を前に、その闘志を揺るがすことはなかった。


「彼を死なせてしまったこと、本当にごめんなさい。・・・そして、ありがとう。僕は今度こそ闘って、そして守り抜く・・・!」


「いえ、あの人は死にません・・・・・・死なせやしない。・・・私、結構根に持つタイプなのでっ!!」


振り下ろされる巨大なかぎ爪の隙間を搔い潜り、勇者らは跳び上がる。


「・・・なんでよ・・・なんでこんな所で力尽きてるの・・・!私の重荷全部肩代わりして・・・あなたが死んじゃったら、なんにも嬉しくなんかないのにっ!!」


彼女は涙目のまま、思いのままに剣を振りぬくが、その所作に無駄はなく、流れるように竜燐をそぎ落とす。


「いっつもいっつも、気まぐれに私を振り回して・・・謝ったって許してあげない。私まだ、あなたにお礼だって言えてないんだから・・・!!」


両翼に黒い炎を揺らめかせ、悲痛な叫びを上げて暴れ回る竜。その直上から強襲する男の瞳には、ただ振りかざされる絶望に抗うためだけの、不格好で向こう見ずな火炎が宿っていた。


「認めよう・・・弱さを呪っても、僕は弱いままなんだろう!?・・・やっと分かったよ。強くするべきは、身に纏う意志の方だった!!」


荒れ狂う竜の背で、彼は寸刻も斬撃を緩めず、むしろその勢いを増していく。


「ならばこそ、僕は弱い僕のまま、勇気を靴として履こう。・・・自己本位な心を、真理を帯として締めるとしよう!!」


「───合わせます!!」


「頼む!!」


勇者らは各々、瞳に自分なりの意志を乗せて剣を構える。その構えは蝶と獅子のように異なっていたが、一人の男から受け継いだ想いは別の形をとりながらも、依然として異なってはいなかった。舞い散る業火をギラギラと反射しながら、剣は邪竜の首筋を見据えて鋭さを増す。


「「──はァァッ───!!」」



・・・交差する剣筋が、竜の喉元を通り抜ける。邪竜は咆哮と共に、紫電の如く光線を天に伸ばす。それが洞穴の岩肌を突き抜けると、邪竜の首元に刻み付けられた十字は刹那の沈黙を終え、差し込んだ光の中に鮮血を散らした。竜の亡骸は空洞を震わせて地に伏し、高峰の洞穴は崩壊の予兆を見せる。


「・・・勝った・・・の?」


「いや、このままじゃ崩れた岩の下敷きだ!急いで出口まで走ろう!!」


亀裂の入った天井は中心部から大きくひび割れ、岩々が崩落を始める。


「でも、あの人がまだ───」


「──君が死んだら、それこそ全部終わりだろう!!!さあ、走るんだ!!」


王子の叱咤に反応した彼女は、弱々しい足取りで駆け出す。王子は走り出した彼女を見送り、胸を抑えて覚悟を決めた。


「クッ・・・間に合うかッ・・・!!───」



──激しく地響きさせて、岩石が降り注ぐ。流星群と化したそれは、邪竜の骸を瞬く間に覆い隠していく。差し込む日の光は強まり、かつて暗闇に包まれていた世界は、その輝きに身を委ねていった。そう、絶望に抗い続け、勇者らの心に光を導いた一人の男を、死した邪悪と共に常闇に残して。

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