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32話 大事なのは自覚

鈍い金属音が、暗闇の空洞に鳴り響く。岩肌に叩きつけられた剣に、呪詛に見舞われた王子は疑問を浮かべているようだ。


「はは、僕もそれなりに強いという自負があるんだけどな・・・・・・君、今()()()()()()()()?」


「・・・見ての通りだ。怪我人に無理させるんじゃあないぞ。」


「剣の軌道が予測できないよう、結構工夫したつもりなんだけどな。・・・まあでも、入り口の強そうな女の子たちは瘴気を払うのに手こずってるみたいだし、まだ時間はたっぷりある。ゆっくりと君をいたぶる時間と、それでしか快楽を得られない自分自身の醜さを・・・存分に味わうとしよう!」


穏やかで凶悪な斬撃を、すんでのところで(かわ)す。無表情によって痛々しさを増した言葉と共に振り下ろされる剣の重みは、鋼の大剣をも上回っていた。


「その言い草じゃ、救ってくれと言ってるようなものだ、言葉と行動が食い違ってるんじゃ、──ッ!ないのか・・・!」


「まさか。君に助けてもらって、自分の汚点を見失うような人間に戻ったところで、それこそ救いがないだろう?絶望を完全に理解した状態が、ヒトのあるべき姿だ。大事なのは自覚と、自己陶酔からの脱却だよ。僕は最初から自分のためにしか動けないって知ってる今の方が、よっぽどましだと思わないか?」


この王子の発言は、希望こそ捨て去ってしまっているものの、真をついているようにも思える。理詰めで行っても間違いは見つけにくく、俺自身が悩みを持つ状況があるとしたら、ほとんどこんなような事を考えているのが原因だろう。元気な俺と落ち込んだ俺がいるとして、それは互いを否定しあうのだが、どちらが正しいというのは知る由もなく、二つの主観がそこにあるだけなのだ。一緒にして良いものかは微妙だが、こいつは絶望に暮れている時の俺と酷く似ている。だとしたら俺はなおさら、今もなお葛藤の真っ只中にいるコイツを何とかしなくてはならない。


「それなら、一つ間違いを正そう。・・・・・・あんたが自分のためにしか動けないってのは、単なる勘違いだ。・・・まだ浅い。」


「知らないからそんなことが言えるんだ。『人の愚かさに限度は無い』ってそのうち分かるから、しばらく黙っていると良い。」


「──はぁ。」


前向きじゃないから人に怒りを見せるのはあまり良くないことだと、そう分かっていたつもりだが、俺は自制心を捨て置いて眉間にしわを寄せ、左斜め前から流れてくる刃の腹に肘鉄を決めてから言った。


「・・・・・・そこ止まりだから浅いつってんだッ───ろ!!!」


荒ぶる感情のままに、その顔面に頭突きを喰らわせる。


「グッ──!言ってくれるね・・・・・・ハァァッ!!」


「当たるかよッ!」


お互いに感情をさらけ出すも、動きの精度が落ちたのは王子の方だ。軌道が甘くなった剣から大きく距離を取り、右肩の痛みも忘れて激しく踏み込む。


「我儘な姫のために命を捨てようと決心したこと、忘れたわけじゃないだろ・・・!」


「自分を正当化しながら楽に死のうとしただけだ、分かれよ!!」


確かな殺意を持って振り下ろされる凶器、しかしその剣は刃こぼれが酷く、死ぬためだけにここに来た人間の物とは到底思えなかった。


「本当は死ぬのが怖くてしょうがなかったから、ギリギリまで邪竜と闘ったんじゃないのか・・・あんたが自分自身を呪ったのも、他人の幸せを願っていたからなんじゃないのか・・・!」


「その後に、婚約を決定した隣国の王を呪っているようじゃ世話ないだろうよ・・・ッ!!今のを避けるか・・・君はどこまでも不愉快な奴だね、このッ!!」


俺は自分自身を奮い立たせるように言葉を紡ぎながら、左肩をかすめていく刃をいなす。


「クッ──!!逆に考えりゃ、人を呪うような奴でも人様の幸せを願えるってこった・・・人の汚点ばっか気にしてたクズ野郎も、誰かを救えるって事だッ・・・!!!」



王子の纏う空気感が、一瞬の静寂をまたいで一変した。


「ッ──!!・・・・・・うるさいんだよ!!」


理性を捨て去った英雄は目に見えるほど強い殺意を向け、全体重で踏み込み、避けようがない刺突を繰り出す。


「・・・・・・貰ったな」


俺は安堵の笑みを浮かべて立ち止まり、


「貰ったッ───!!!」



心臓に寸分たがわず狙いをつけたその剣に、胸を貫かれた。

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