30話 愛がゆえに傷つく人は結構多い
雲を突き抜け、閃光は激しく空を飾る。久しく目にしなかった青空が、遂に差し込んだ日の光が、窓を開け放ったような開放感を投げかける。風音は団長と雨宮の悲鳴をかき消す程に強烈だが、ただただ心地良いと感じるのみだ。
「っはは、こいつは良い!・・・なあミニっ子、空を飛ぶのは良いものだな!」
「・・・ん、よくきこえないけど・・・どこにいけばいいの。」
メモは俺の言葉に何か返答したようだが、あの小さな声では当然ながら、全く聞こえるはずもない。が、聡明なミニっ子の事だ。目的地を聞くなどして、ことが前に進む発言をしているのだろう。俺は箒の柄に胸を引き寄せ、彼女に見えるように、そびえ立つ高峰を指差す。彼女は黙って頷き、箒を握る手を引き締めた。
・・・あそこに、呪いを請け負った王子がいる。自分を呪いさえした直情径行な姫をも愛し、その重荷を全て自分の背に引き取った英雄が、そろそろ背負いきれずに苦しんでいる。俺は今からそこへ向かって、彼が持つ呪詛の根源を肩代わりしてやらなければならないのだ。・・・愛がゆえに傷つく人は結構多いが、だからこそ俺はそいつらに、愛がゆえのハッピーエンドを示してやりたいと願っている。いや、願えているかも分からないが、そうあるべきだと確信している。大空の清々しさのの中でも、箒の柄を握る俺の手は、全く揺るぎはしなかった。
「あの洞穴で間違いなさそうだな・・・ミニっ子、ナイスフライトだ。」
メモの左手を軽く二回叩くと、穂先の光は即座に止んだ。止まれの合図として決めてあったが、あまりにも手際が良く、やはりこのミニっ子はお利口加減には頭が上がらない。洞穴に突入してしまう角度のまま、迷いもせずに箒を止めてくれたようだ。俺は体制を立て直して箒に足をかけ、ミニっ子をかかえて団長の方に近づける。
「え、止まって───」
「──団長と雨宮、箒とミニっ子は任せた。」
「──っ!!・・・アメミヤちゃん、行くよ!」
「は、はい!!」
『憎悪の邪竜』が住まうとされる高峰の洞穴に、箒は一直線に吸い込まれていく。この先で待つのは、人を瞬く間に化け物へと変貌させる呪詛のその根源、醜劣な負の連鎖の中核たる邪悪の権化だ。団長は驚くほど反応が速く、かなり気が引き締まっていたようだが、それはおそらく、この暗闇の最奥にあるものを感知したからなのだろう。王子が生きている時点で童話の内容と異なっており、憎悪の邪竜が健在である可能性も十分に考えられる。そうでなかったとしても、団長の表情から感じ取れる威圧感は、並大抵の化け物に対するものでなかったのは確かである。
(決着をつけて見せる。俺が、この手で)
呪詛の一件で唯一死人を出したのが、俺だ。俺はこの手で、切り詰めれば救えたかもしれない命を、確かに刈り取った。・・・俺は人間を、一人殺した。
だからこそ、俺が終止符を打つ。人を殺したことを正当化できると思っているわけではない。許されると思っているわけでもない。・・・だが、人を殺す悪役だけは、もう増やさせはしない。あるだけの正義感を振り絞って、俺は目を閉じ、再び開いた。
「・・・行くぞ・・・!!!」
二人は勢い良く洞穴の入り口に飛び降り、阿吽の呼吸で箒を掴んで止めて見せた。・・・と同時に、俺は圧倒的な速度を残したまま、暗闇に飛び込む。
岩場を転がり、切り傷をつけながら受け身を取って、決して勢いを殺さず、また転がる。空洞音と微かな視界を頼りに体制を立て直し、身体への負担など捨て置き、あるだけの力をありったけ使い前進する。威嚇歩で音を殺し、暗闇で姿を消し、魔力の通わない俺は無風の風となって吹き抜けた。
「・・・そこか・・・!!」
小さく素早い呼吸、口に入り込んだ呪詛の瘴気から根源の位置を割り出し、巨大な空洞と一体化した肉塊の手前で跳び上がる。
「──────!!」
踏みつけた瞬間、肉塊は悍ましい音を立て、洞穴を埋め尽くす肉壁が大きく脈打つ。・・・よりも先に、俺は次の足を大きく踏み込み、醜悪な根を這わせる肉塊の中心に縛り付けられた男の元へと、力のまま飛び込んだ。
「──────────!?」
「・・・取った!!」




