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28話 一匹残らず俺のものだ

芝生に転がる雨宮から邪気が抜けたのを確認し、俺は安堵の息をついて宙を見つめる。


「・・・レディーに蹴られるのは、もうこりごりだな。・・・わざとだったら大変申し訳ないんだが、スカートでライダーキックをかますのは、倫理的にどうなんだ?雨宮。」


「───っ!!」


悶絶する雨宮の足を芝生に横たえるためにかがむと、彼女は丈の短いスカートを抑えて抵抗した。なにやら要らぬ誤解をさせてしまったようだが、生憎俺はこういった場合の適切な反応を心得ておらず、さすがに少し戸惑う。俺がそれ相応の返しをしなければ、彼女は自信を失ってしまうだろうか。それとも、これ以上不快感を抱かせないよう黙っておくべきだろうか。慌てた素振りでそっぽを向けば良いのか、はたまた知らん顔で彼女の回復を喜べば良いのか、俺には全く見当がつかないのだ。


「なんというか、・・・悪かったな。多分、すごく魅力的なんだとは思うぞ。」


そのまま足から手を離して立ち上がり、ワイシャツのボタンを留めながら言葉を絞り出す。俺としては純粋な意思を伝えたつもりだが、字面だけで言えばとんでもないことを口走ってしまったようだ。かと言って今更どうこうできる話でもなく、尚更たちが悪い。珍しく場の空気感に居心地の悪さを覚えた俺は、多少不自然な形でも話題を切り替えなければと思い、歯切れが悪いまま口火を切った。


「・・・ちょうど団長もいることだし、一つ種明かしと行こう。俺があんたらの呪詛を取り除くのに使ったのは、『状態転流(スキルドレイン)』だ。団長と雨宮の呪詛は、俺が引き取った。」


状態転流は、相手に発動しているスキルを流出させ、自らの内に再発動する闇魔法だ。恩恵が大きい程必要な魔力も大きくなるが、自分に害をなすスキルについてはノーコストで奪える。まあ俺に限った話、良い効果のスキルは一切奪えないという、ただの危険物処理スキルに成り下がっているわけだが。


「・・・本当はもう少し時間をかけて探す予定だったんだがな・・・団長が急かすもんだから、急ごしらえで覚える羽目になったってわけだ。ああ本当、当分は何も考えたくないな。」


実を言うと、王都のこの有様を見る前から、呪詛の治療法を模索してはいた。童話の内容とスキルの情報を照らし合わせて並列思考を試み、どうにか闇魔法に切り口を見出した時点でも、頭を相当酷使していたのだ。その段階で王都が侵食、団長が呪詛にやられてしまったのはあまりにも急すぎる出来事だったため、何の比喩もなく脳が裂けるところだった。火事場の馬鹿力なのかは知らないが、一週間分はある思考を数秒に詰めたのはアレが最初で最後の機会であったことを、俺は切に願う。


「・・・そう言ってる割に、嬉しそうな顔してるね。」


ゆっくりと近寄ってきた団長に、俺は心からの笑みを返す。


「当然だ。・・・・・・あんたが無事で、本当に良かった。」


「っ!!・・・そっ、そう、みんなが無事で良かった。」


俺は小さく頷き、いまだに瘴気の靄を溢れさせている王宮の中心を睨む。それは雨宮から呪詛を取り除いても全く止まる気配がなく、次々と悪意を生み出し続けているようだ。


「・・・だからこそ、まだ終わらせちゃいけない。『呪われた姫』の呪いは、まだ終わっちゃあいないんだからな。」


「それってどういう・・・・・・ってか、団長さんの頼もしくてかっこいい協力者って、風間の事だったんだ。」


「──ちょっ!!アメミヤちゃ───」



「──そう、あの童話の真名は、『呪われた王子』だったってことだ。」


動揺している団長を差し置き、数々の疑問をひも解くようにして、俺は話をつづける。


「なぜ大魔導士は、呪詛を姫から取り除く方法を知っていて尚、それをしなかった?王子がすぐに習得できるような魔法を、なぜ大魔導士の自分が使おうと思わなかった?その理由は一つ、大魔導士には『使えなかった』のさ。わがままな姫の幸せを心から願い、状態転流(スキルドレイン)で自分がその呪詛を引き取ってでも助けたいと思うような犠牲の愛は、他でもない王子しか持ち合わせていなかったんだからな。」


「・・・でもそれって、呪詛はずっと誰かの中に留まり続けるって事じゃ・・・っ!まさか・・・!」


「ああ。だから王子は呪詛の根源を持ったまま、七魔獣の一角、憎悪の邪竜と心中を試みた。あの不自然なあとがきの正体は、再び起こる災害の火種へと導く道標だったわけだ。団長、あの追記は確か、第二騎士団のあいつが怪しい動きを始めた後に書かれたものだったよな?呪詛の根源が他人の手に渡った時、それに影響を受けた人々が元に戻るのだとすれば・・・俺から呪詛が消えていない理由はただ一つ」


「王子は、まだ生きている・・・!!?」


話を変える前の雰囲気とは打って変わって、団長と雨宮は推理シーンにノリノリなようだが、とうとう話の全貌が見えてきたことは確かだ。邪悪で卑劣な呪詛の根源、それを引き取った英雄はたちまち、次の厄災の火種となってしまう。決して消えない絶望の呪いは、永遠に人の心を蝕み続けるべく、今もまだ脈を打っている。そういった面白味のない現実が、この退屈な物語の真相なのだ


「・・・それなら、目的地は高峰の洞穴だ。呪詛の根源なんてものは、俺のポケットにでも入れてしまえばいい。」


嘲笑う負の連鎖に終止符を打つため、俺は拳を握りしめる。


「手の届く範囲の汚れ役は、一匹残らず俺のものだ・・・!!」

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