表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/92

25話 ここでちゃんと生きている

薄れていく意識の中、俺は抱きしめた団長の震えだけを頼りに言葉を紡ぐ。


「もう、大丈夫だ。あんたは、呪術を知る俺が生き残り、状況を改善する可能性に懸けたんだろう・・・?その『最後の可能性』ってやつは、ここでちゃんと生きている。・・・バトンタッチだ、よく頑張ったな」


「っ──!?」


か細い光が彼女を包むと同時に、突き立てられていた団長の手は、俺から離れてくれたようだ。スッと力の抜けたその肩に身体をあずけると、彼女は多少困惑しながらも受け止める。


「このところ、あんたのせいで無茶しっぱなしだ。・・・ああ、頭が痛い。」


「ほんとにばか、もうこんなにボロボロ。死にかけのあなたに、一体なにができるって言うの・・・。」


弱々しく笑って悪態をつく団長だが、涙の残る彼女の瞳には光が戻り、身体に纏っていた靄は既に消え失せていた。今の今まで俺を殺しにかかってきていた彼女が放つ台詞ではないが、呪術に乗っ取られていた彼女が正気を取り戻したことは確かだ。


「っはは、よく言うぜ。ボロボロのまま足掻いて見せたのはあんただろうよ。呪術について嗅ぎまわるなと、あれだけ釘を刺しておいたのにな。・・・・・・ってなわけで、あとは任せろ、大バカが。」


彼女はもう一人で戦わなくていい。そのことがやっと、確かな形で伝わってくれたようだ。少しそわそわしだした彼女は、照れ気味に顔を背けながら言った。


「もう、うるさいな。・・・・・・でも。」


彼女は雑念を振り切るように首を振って俺の肩を掴み、大きく息を吸った。ガーネットの瞳が鈍く鮮やかに光り、飾らないが綺麗な唇が動く。


「・・・助けてくれてありが───」


「──任せろと言っておいてなんだが、俺を抱えて逃げてくれ。・・・正直あいつは分が悪い。」


俺が顎で指した方で、身構えた雨宮がこちらを伺っている。


「どうやったか知らないけど・・・とにかく、あんたに触られたらいけないみたいね。・・・てきとうに後ろでも取って、結界で弱った団長さんごと叩き潰してあげる。」


頭の回る化け物ほど厄介なものはいない。満身創痍の俺では、雨宮には触れることすら出来ずに殺されるだろう。ここは一度退いて、強引にでも体勢を立て直すべきである・・・という理由から冷静に判断したつもりだが、団長はなにか納得いかないご様子だ。


「・・・ほんと、そういうとこだよっ!!」


俺はまた無礼を働いてしまったようだが、彼女はしっかりと俺を抱えて走り出してくれている。誠実な彼女を眩し気に見上げながら、俺はお姫様抱っこで運ばれていった。


「・・・で、何処に行くの!?アメミヤちゃんに魔力感知を使われたら、隠れてもすぐばれちゃうけど!」


「ミニっ子を結界に詰めてんだろ?その結界のある場所に連れて行ってくれ。ああしっかりと、()()()あいつがいるところにしてくれよ?」


地下に保護してあると聞いたが間違いなくブラフ、俺なら真っ先に頂上付近に向かうだろう。


「確かに、メモちゃんがいるのは地下じゃなくて頂上だけど・・・あなたなんでこの状況でそんなドヤ顔できるの・・・。」


「プライドとか言ったか、生憎そんな大層なものは持ち合わせていないんだ。あとはそうだな、痛みを隠すポーカーフェイスみたいなものだ。」


「・・・もうっ!」


大いに結構、俺はしょうもない人間だ。プライドとなどというものは俺にとって、その自覚をぼやけさせる害悪の瘴気であり、自己陶酔パワーとでも言おうか、とにかく邪魔なだけの塵芥なのである。そんな思想を持ってしまったせいで、周りは俺を多様な感情から嫌悪していたが、自分をキラキラと醜く正当化しない自分を正当化し、俺はしたり顔で悦に浸るのである。団長の足が地面に着くたびに襲う激痛から逃げるように、俺はそんなことを考えていた。


「ハイステップ!!・・・ふう。ここが結界の部屋だけど、どうするの?外からは入れないし、声も遮断されちゃうよ?アメミヤちゃんに見つかるのも時間の問題かも・・・」


彼女は早口になりつつも、丁寧に肩を貸してくれている。


「助かった。・・・ちょうどいい機会だ、この鞄をあんたに返そう。こいつには随分と助けられた、感謝してるよ。」


「ど、どういうことっ?」


透明な壁の前で腰につけていた鞄を外し、団長に手渡す。声を上ずらせて困惑する彼女の眼前で、俺はそのまま結界をすり抜けて見せた。


「こういう訳だ。しばらくアメミヤの相手、頼めるか?」


また彼女に頼る形になってしまうが、この際団長とはそういう間柄ということにしよう。俺が結界の内側でニィッと笑って見せると、彼女は空間の歪みを叩いて不満を訴えていたが、観念したようにため息をついてから、まっすぐな目で階段を降りて行った。


「あとは任せた・・・あとは任せろ、団長。」


無力で無責任な自分に腹が立たない訳ではないが、俺はまた妙な笑みを浮かべて、その扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ