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22話 大体のことは何とかなる

「ハァッ、ハァッ・・・!まるで進めない、なっ!!」


襲撃する多様な魔物を斬り続け、どれだけの時間が経っただろう。無限に湧いてくる魔物を、切れ味と熱を保った鉄塊で切り伏せ、足元が死体の山になっては、塵になって消える。その繰り返しの果てに、俺の感覚は既に麻痺しきっていた。何かあると思い黙っていたが、こんなことなら、あの不審な団長に魔物の情報をもらっておくべきだったかもな・・・。


「・・・だがもうここまでだ。・・・ほらよっ───!」


大型の魔物に武器を投げ、熱した刃が巨大熊の腹を貫いたことを確認次第、即座に走り出す。

得意かはともかく、俺の好みのスタイルは戦闘ではなく、卑怯且つ開き直った敵前逃亡だ。今までのは身体ならしと魔物の行動パターン及び出現頻度の確認、言葉通りの暗中模索だったのである。言ってみればウォーミングアップ、ここからは好転一方であり、疾走する俺を奇襲できるのは茶髪紅眼の団長ぐらいだろう。


「真正面───ッ軽い!」


魔物の動きは既に把握済みだ。とびかかる狼を受け流しつつ前もって多数研いでおいた石塊を刺す、犯罪者予備軍の俺にしてみれば、造作もないことなのである。まあそのような事実、全く誇れるものではないのだが。・・・代わりに一つ誇るとするなら、自分の短所を堂々と自慢し合えるようなお友達を持たなかったこと辺りだろう。つまり俺は、そこまでひねくれ切っているという事だ。・・・全く情けない限りだが、今そこについて考えるのはやめるとしよう。


「っはは、愉快も愉快。身体を動かすのは気分がいい。今はその程度で───十分だ・・・!」


小型大型問わず好き放題に暴力を振るいながら、入り組んだ木々の隙を獣のように駆け抜ける。倒木を踏み台に跳び上がり、頭上の枝に手をかけて魔物を蹴り飛ばしていた頃にはもう、人徳など放棄して笑っていたものだ。

環境倫理?・・・煩わしいな。煩わしいことは、今は知ったことではないのである。割と大きめの使命とやらにあやかり、俺はこの瞬間、『信じる』という言葉の真意すら掌握しているのだ。耳触りのいい言葉で表すなら、確かな勇気を持って行動を起こせば大体のことは何とかなると、そういう事なのだ。


───────


死の淵である暗闇の森を、近接格闘の練習場、または一種のアトラクションだと認識してからというもの、時間の流れが一気に加速した。全身を満たすアドレナリンがいつ切れるか、気になることはそのくらいだったように思う。


「・・・腕の一本あたりはくれてやろうと思っていたが・・・。案外行けたな。」


昇りはじめた日の光で色を帯びた空は、珍しく、ちょうど森を抜けた俺を歓迎しているようだ。冷たい風が草原を波立たせ、凶悪な魔物の姿は見受けられず、ちらほらと辺りをうろついているのは呑気で温厚な草食魔物だけだ。追手はなく、俺はやっと安堵の息をこぼした。


魔物を相手し続けたためか、使えるスキルがかなり増えている。実際目の当たりにしたのは近接攻撃ばかりだったが、それでも分野の幅は広く、多くの技を体得できているようだ。


「まあこいつらはおいおい試すとして・・・さすがに疲れたな。」


ステップ走法を行使しても、長時間にわたる戦闘は負荷が大きかった。そもそも、ステップ走法は身体負荷を精神負荷に置き換えているに過ぎず、疲れとしては大して変わらないのだ。俺は遠方に見える王都に歩を進めながら、今すぐにでも横になりたいという願望と対峙する。



(・・・いや、まだだ。・・・そうだろう?団長。)


俺を一人森に取り残した団長の、あの目。俺が森で野垂れ死にするように動きながら、その目からは迷いと決意が同時に垣間見えた。


真意は知らない。だが、その迷いが『人を見殺しにしたくない』というものだったなら、この命一つにも、今は大きな価値があるという事だ。そして、あれほどの状況に俺を置き去りにしながらも、俺に生きて欲しいと思っていたなら、団長が取り巻く問題に対して俺は危険分子だ。本来は死んでいるはずの俺が、生きている。それは彼女が隠す『何か』にとって致命的なエラーであり、団長が願った『突破口』なのかもしれない。


俺が異端者としてやるべきことは、まだ尽きそうにないみたいだ。俺は甘い味を付けた治癒のポーションを流し込み、すぐに走り出した。

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