21話 問題解決のための情報提供
森の闇が深まる中、俺はミニっ子の様子を見つつも頭をひねる。
まず、世界での『スキル』の常識についてだ。団長の言葉によって、俺の中に『常識』として入っている情報が書き換えられた。それによれば、二種類以上のスキルを連続、または同時に発動することは絶対的に不可能なのだ。常識的に不可能だから、やらない。至極当然な自然の理によって、本当はもう少し頑張ればできるようなことも、できなくなるようになっているという事だ。
(だが、常識を疑った気違いが得するような仕組みは、案外嫌いじゃない。)
そして、場所が明瞭で内容がぼやけている、明らかに不自然な童話の追記。取って付けたようで本筋との親和性が薄く、物語を面白くする要素も特に含まれていない。危険な場所への注意勧告なら初等学舎での教育に盛り込まれているはずだし、ハッピーエンドに導かれているわけでもないなら付け足す意味がない。それでも追記の必要があったとするなら・・・
「真相に気づいた人間に、問題解決のための情報提供をしている、というわけだ・・・」
「っ──!!・・・、そ、そうなのかもね。」
現に呪術は消え去っていないし、ミニっ子の予知によれば、五年後に王都は滅びているときた。
・・・この童話はまだ、終わりを迎えていないのだ。この話が実話だと判断した俺や団長が・・・起こる悲劇を食い止めるまで。
つまり俺達が向かうべき場所は、童話として真実を残した張本人の居場所か、その人物が示した〔王都付近の高峰にある洞穴〕、という事だ。
(それはもう、分かっているんだろう?・・・団長。)
少なくとも、先の見えない森の奥深くに用はないはずだ。俺の言葉に対する反応からも分かる通り、彼女は何かを隠している。それはもう重大で、核心をついた『何か』を。
「その子・・・まさかあなたの子って訳じゃないんでしょう?」
そして、不審な動きを見せ続けた団長はついに行動を起こした。
「・・・ああ、こいつはただの『ともだち』だ。」
「私が保護するから、預からせてくれない?」
彼女はそう言い放つ。静かに、それでいて圧倒的な重みを乗せて。森のせいか光が見えない彼女の瞳は底が見えず、その眼球が何処までも続いているように感じる。
今この団長にミニっ子を渡せば、皆が無事でいられるだろうか?
彼女の不審な言動の数々、そこから逆算していけば、おのずと答えは出てくるだろう。
彼女は今まで、何をやっていた?
俺を探し、嘘をついて森の奥へ誘導しつつ、有益な情報、呪術の追記を原文のまま俺に伝える・・・そう、まるで謎が解けていないかのような口ぶりで。
俺は少しの間を空けて、ゆっくりと応答した。
「ああ、良いだろう。・・・ミニっ子、このお姉さんについていけば絶対に安心だ。・・・ああ本気だって。信じてくれ・・・・・・な?」
メモは俺の目をまっすぐ見て、すぐに返す。
「ほんき、わかった。・・・まかせろ。」
俺がミニっ子を団長の方に差し出すと、彼女は大きく息を入れ、そしてまた俺を睨む。
「・・・・・・・・・良いのね?」
「団長は心配性だなァ。一緒に王都に帰ってるんだから、そんなマジな表情しなくたっていいだろう?・・・、なあ団長・・・あんたは笑っていた方が美人だと、俺はそう思うぜ───」
「──っ、ハイステップッ!!」
メモを抱えた団長は踵を返し、疾風のように森へと消え去った。王都の方向に向かったようだが、一直線に進む団長のスピードに、生身の俺が追いつけるはずがなかった。森の相当奥まで来たため、王都に戻るなら走っても五時間はかかるだろう。走って一直線に帰って五時間、とうに夜のとばりが降りており、視界は狭く魔物も活性化してくる。その中で安全かつ速やかに帰れる保証は、何処にだってありやしなかった。
「ミニっ子、団長・・・。・・・無事でやれよ。」
団長がとった行動の真意も、俺か生きて帰れるかどうかも分からない。だが、あの団長はおそらく、俺を『信じて』いたのだろう。初めて垣間見えたあの目は、多分そういう目だったのだ。
・・・それならば、俺はその意味不明な期待にまっすぐ応えるのみだ。深い闇の森、迫りくる聞いたこともない音量の足音に、俺は凶器を取り出して笑った。
「っはは、まったく。・・・・・・当分は退屈しなさそうだ・・・!」




