20話 相当やばいかもな
「強烈な光を放って飛行するものがーって報告を聞いた時から、あなただとは思っていたけど、予想が当たって良かった。」
「奇跡的な直感は予想とは呼ばないし、しでかすなら俺という解釈に至っては言いがかりもいいところだ。解決こそすれ、俺は問題を起こそうなどと思ったことはない。」
「でも実際、あなたの周りでトラブルが頻発してるのは事実でしょ?。」
俺はまた痛いところを突かれてしまったようだ。少々スピリチュアルな話になってしまうが、俺のトラブル体質のせいで問題が発生しているのでは、俺がいなければトラブルなど起こらないのでは、という純粋な疑問が、解決しないまま俺の心に留まっていたのは確かである。
「そもそも俺が望んだわけでは無いし、知ったことじゃあないな。」
口でそう言う一方で、俺が少し責任を感じているのを、彼女は見逃してくれはしなかった。
「でも実際、気になって何とかしちゃうんでしょ?」
「・・・お手上げだ。生憎出しゃばりなもんでな。」
だんだんあなたの捌き方が分かってきたわ、といった表情でほくそ笑む彼女のペースに乗せられ、そのまま話が進んでいく。
「そんな出しゃばりなあなたに、情報提供してあげる。どうせ『呪術』の事ばっかり考えてるんでしょ?」
正直少し気に食わないが、俺の後ろに隠れているミニっ子のことも差し置いて話すのだから、聞く価値は十分にあるだろう。不機嫌なハシビロコウ、あるいは駄々をこねる小学生の様だったかも知れないが、俺はふてぶてしく溜め息をついた。
「とりあえず王都に戻るから。歩きながら話しましょう?」
(・・・こいつは、相当やばいかもな)
「・・・・・・そうか。」
強引な団長を横目で睨みながら、俺は黙って彼女に続く。状況的に逃げる理由は無いのだが、団長は執拗にこちらを振り返っているようだ。魔物を警戒する様子もなく、森をどんどんと、進んでいく。
「・・・それにしても、運が良かったみたい。あの湖には『七魔獣』の一角、『忍耐の氷魔竜』が棲んでるの。物理攻撃も魔法も一切効かないし、結界を張った上に魔力感知と氷結攻撃を同時に使う、とんでもない化け物だよ?今回は姿を現さなかったけど、もし結界の内側に閉じ込められてたら、一瞬で氷漬けにされてたんだから。」
団長の視点から見ても、あの魔物は結構な厄介者だったようだ。彼女の口から攻撃が一切効かないという言葉が出てくるのだから、討伐難易度は相当高いのだろう。それでもあまり実感が湧かないのは、俺が魔法の仕組みについて把握しきれていないのが原因である。
「随分とお強い魔物みたいだが、魔力感知と冷術は初歩スキルじゃあないのか?」
「凶悪なのは同時使用の方。ただでさえ魔物は、魔力装甲に身を包まれてるというのに・・・同時なのか連続なのかは知らないけど、複数の技をあのペースで使うなんて、どうかしてる。」
「・・・団長はできないのか?」
「人はできないの!からかってるならデコピンするけど、氷魔竜の結界が破れる威力で。」
その回答はあらゆる意味で、俺の想定を大幅に上回った。
技の同時発動、あるいは継続発動。俺がやけに神経を使うため苦手としていたそれは、驚くことに、出来ないというのがこの世界の常識らしい。
発覚する新事実を前にして、スキルを同時継続発動する俺は、とうとう人間扱いすらされなくなってしまうのだろうか。人外認定と殺害予告を同時にやってのける彼女をなだめると、そこまで怒りの感情がこもっているわけでもないだろうに、団長は妙にふるえた溜め息をついた。
「そろそろ本題に入るね。・・・騎士団の書庫を漁って分かったんだけど、『呪われた姫』には続きがあったの。」
不自然なタイミングで話題を変えた彼女は、どこか焦っているように見えるが・・・やはり動いてやがったか。呪術について嗅ぎまわるなと、しっかり釘を刺しておいたんだがな。まあ純粋で野性的な正義感を持つ団長が止まっていられなかったのも、自然な流れではあるのだろう。
「と言っても、すっごく短いんだけどね。
【姿を消した王子は王都付近の高峰にある洞穴に向かい、人々の悪意を増長させる『憎悪の邪竜』と闘った末、自分の命と引き換えに邪竜を封印した】
・・・と、追記はそれだけ。憎悪の邪竜は氷魔竜と同じ七魔獣で、実際に存在が確認されてたんだけど・・・そんなのあとがきに残して、一体なにになるんだろう。たとえ報われなくっても誰かのために行動できる、そういう王子の優しい人格が強調されてるのは、私からしたらなんとなく嬉しいけど・・・それでも、どうしてこの追記があるのか、そもそもこの物語の存在すら謎でしょうがないかも。」
思えば彼女の言動の基準は、この童話の王子のものと似ていたように感じる。路地裏で弱音を吐いた俺に向けた言葉がこの王子のものと一致していたのは、彼女が王子の人格を目指しているからだと考えるのが妥当だろう。本人は気づいていないのかも判らないが、このアイリス=ミリオンという少女は空回りしつつも、俺含め、人々の心に軌跡を残していたわけだ。
(だからこそ・・・彼女のこの行動は辻褄が合っていないんじゃないのか?)
「え・・・急にどうしたの。」
目つきが悪く見えることを気にもせずに、団長の瞳を探る。王都に戻ると言って歩き出した時点で、既に俺の疑念は確信に変わっていたのだ。
団長の様子が、圧倒的におかしい。見知らぬ少女がいる前で躊躇もせず『呪術』と口走り、ミニっ子と湖含め他のものに一切興味を示さない態度をとる。その時点でも十分不審であったが・・・
(王都は真後ろだぜ・・・?団長さんよ)
彼女は王都に戻ると言って俺たちを先導しておきながら、王都と真逆の方向に歩を進めていた。薄暗く深い森は生気を感じさせず、立ち込める不気味な空気は視界の彩度を落としている。
目はピッタリ合っているが、まるで向き合っている実感がわかないどころか、この目に映るこの人物が団長であるかどうかの判断すら、容易ではなかったように思う。
魔法の根底にあるカラクリ、不自然な呪術の追記、そして何より、純真で不審たる第三騎士団長。
俺は向かう先の暗闇を眺め、メモの頭に手を乗せる。
とぐろをまいて組み上がった真実は、まだ見通すには程遠いみたいだ。




