18話 悪い子は実は弱い子だった
「・・・とりあえず、ミニっ子にお土産でも持っていくとしよう。」
雹の舞う氷結の湖に、ダイヤモンドの亡骸。考えようによっては神秘的な光景だが、俺は路地裏でガラクタ漁りを行っていた経験から、目の前の宝石類を放って去るわけにはいかなかった。下半身は湖の底に沈んでしまったし、驚くほど熱に弱かった胴体は炭化し溶け切ってしまっていたため、綺麗に残った氷魔の竜の首から上を丸ごと鞄に入れてその場を後にした。
「よぉミニっ子。・・・寒かったか?」
うずくまってピクリとも動かない少女を安心させるため、なるべく柔らかい声を意識したつもりだったが・・・
「さむかったのは・・・おまえのほうだ。」
低温で壊死した傷口を指差して、彼女は俺より苦しそうな顔をした。気づきが早く、気遣いも早い。ミニっ子はこの見た目の幼さに似合わず、驚くほど利口だ。自然且つ本質的に絞られた言葉を発していたようだし、やや常軌を逸している。
火を焚きつつも彼女の発言を待つと、俺にもたれかかってゆっくりと口を開いた。緊張がようやく解けたと見え、それは良かったが・・・
・・・警戒の色を見せずに近寄られることに、俺は正直慣れていなかったのも確かだ。
「どうやってたおした・・・?」
「・・・溶かした。」
「まほう、あいつに効くわけない。」
彼女の言葉から発想できる竜の姿は、物理攻撃も一切通らず魔力も無尽蔵という、完全無欠に近いものだった。実は吹雪に対抗すべく自分の身体を燃やしていたのだが、そうでもしないと一瞬で凍り付きそうだったことも考慮すれば、奴がかなり強い魔物であったことは理解できる。
今回は、・・・いや今回もというべきか、俺は大変に悪運が強かったのだ。火の魔法が自分に及ぼす影響をなんとなくで調節できないものであれば勝ち筋は無く、ダイヤモンドの性質が俺の思うものと異なっていた場合も負けていた。俺の熱は魔力が通っておらず、異質だったがためにそのまま通用したという事だったのだが、正直負ける要素ならいくらでもあった。
だが今それを口に出せば、この利口な少女は自分を責めてしまうだろう。
「・・・まあ、あれだ。悪い子は実は弱い子だったってわけだ。」
慣れない感覚に多少困惑していたのもあり、歯切れの悪い返答になってしまったかと思う俺に、彼女は覚悟を決めたような表情を見せた。
「・・・すごくしんけん。ほんき。」
「・・・良いだろう。」
「じつは、きんきゅうじたい。・・・・・・王都、ごねんごにほろぶ。」
彼女によれば・・・王都が五年後に滅ぶらしい。
その声は非常に小さく、断定形の割にはあまりにも覇気が弱かったし、内容が内容で現実的ではない。必死な表情で俺の反応を伺う姿を見れば悪戯でないことは分かるが・・・・・・普通の人間なら、何らかの原因による思い込みと考えるのが妥当だろう。
・・・しかしながら、凶悪犯罪者の俺も、箒で空を舞う彼女も、『普通』であるはずもなかった。
(なら、俺が今かける言葉は一つだ)
「・・・俺は何をすればいい?」
言葉の審議も内容の詳細も度外視した質問に、ミニっ子は絶句したまま呆然とする。
「・・・うそだって、おもわないの・・・?」
「ガチだから言ったんだろ」
「しんじて、くれる?」
・・・おかしな言い方だ。「信じてあげる」などと言う時点で、疑念を持っていることになるだろう。そもそも『信じる』という言葉自体、事実でない可能性が明確に残っている時しか使わないわけで、言ってしまえば矛盾の塊なのだ。そうと知った上でその言葉を交わすのなら、おそらくそこに理屈の世界は無い。そして、たった一言で世界の理屈を超え、どんな相手とも心を通わすような芸当は、俺には到底出来ないだろう。
(・・・俺は・・・・・・善者じゃない)
「疑いはある。人の発言の全てを信じることは、俺にはできない。・・・けどまあ、ミニっ子が本気だってんなら、嘘だって構いやしないさ。空は飛べないが、力を貸そう。」
少し厳しい言葉を使ったが、彼女は俺にもたれかかったまま、俺の方を見ないで言った。
「おまえ・・・・・・やっぱりかほご。」
「そうか?」
「そう。」
・・・朝露と冷たい空気は去り、日が昇ってきた。




