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17話 目が見えないから耳が良い

「・・・・・・規格外に限度は無いらしいな・・・」


翌日。延々と眠っていた彼女を放置して作業をこなしていた俺は、後悔の念に苛まれていた。

視界に映るのは澄んだ空と鏡の湖、スヤスヤと眠るミニっ子と、


牙を剥いた一頭の『竜』だった。


確か『白雪姫』だったか、王子が森で眠る姫を救う物語があったな。・・・その童話自体にさほど興味は無いが、こっちにきたばかりの雨宮の一件もあり、やはり森で寝ている少女を寝かせたままにしてはいけないらしい。

円形の湖の水面(みなも)を震わせ、大きくしぶきを上げてその中心に現れた白き竜。水滴を輝かせながら乱反射するその鱗は、何の比喩もなく宝石そのものだ。幼い少女への寝起きドッキリにしては、規模があまりにも大きすぎるだろう。


「起きろミニっ子。・・・頼む。」

「・・・あ・・・おはよう」


行儀の良いミニっ子は、寝起きで人を殴ることもなくスッと起きたようだ。肩を強く揺さぶって起こすような強引な真似はしたくなかったが、悠長なことを言っていられる場面ではなかった。


「・・・実は、緊急事態───」


「───ギャオォォォォォオ!!」


威勢の良すぎる咆哮に、現実感が一瞬にして吹き飛んだのを感じた。・・・が、予備動作に気づいてミニっ子の耳を塞いでおくことが出来たのは良かった。イレギュラーに困惑しつつも頭は平常に回るようで、少し安心した。


顔で疑問符を表現した彼女を抱えて走り出すと、竜が直線状に吐息を放つ。簡単に言えば『氷のビーム』なわけだが、俺がちまちま小遣いを貯めて購入した毛布が一瞬で凍り付いたのを見る限り、敵意を隠すつもりはないらしい。

次々と放たれる氷柱やらブレスやらをかわし、森へ向かう。


「勝ち目の薄い相手には、逃げの一手と言いたいところだが───」


「──あのけっかいからは、出れない。」


やはりそのようだ。あの妙な空間の歪みは朝からあったが、俺達は透明な檻に閉じ込められている状態なのである。いつ張られたのか見当もつかないし、寝ずに番をすべきだったと大変後悔しているが、後悔できる過去は過ぎてしまっているから、反省に変えたらすぐに忘れてしまおう。


気を改めて現状を語るなら、あの結界は魔力の(かよ)っているもの、つまりこの世界の大半の物質は一切通らず跳ね返った。試行錯誤の末に俺は通り抜けられることが分かったのだが、今その情報は大した役には立たないだろう。


「・・・消耗戦は得意だ、心配しなくていい。ひとまず様子見と言ったところか」



・・・・・・・・・


巨岩の如き氷塊、刺突を謀る氷柱に広範囲のブレスと、色彩豊かな透明色の凶器をしばらく避け続けるも、無尽蔵に放たれる氷は止まることを知らなかった。


「底を突く気配がないな。それに、本気で動けば避けれるが・・・あの野郎、移動先を予測してやがる。」


「あいつ・・・ひょうまのりゅう。湖からまりょくをすって、ずっと強いまま。めが見えないから、みみが良い。からだが弱いから、ダイヤモンドのうろこ」


「ほう。おりこうなミニっ子だ。」


経緯は知らないが、彼女はあの竜についての知識を持っているらしい。俺は飛来する氷の猛攻をかいくぐりながら、彼女の話す情報を整理していった。


「弱点は」

「ひょうまのりゅうは世界一あつがり。だからずっと冷たくしてる」


「魔法は効くのか?」

「あいつのまりょくは湖とおなじ。湖にまほうはきかない。」



「・・・・・・そうか。なら最後に一つ、あいつは良い子か悪い子で言えばどっちだ?」


「強いのに、悪い子。人をまどわせてころす。」


淡々と解釈の難しい事柄が並べられたが・・・

・・・俺なりに考えた結果、打開策は得た。


「それなら何とかなりそうだ。・・・絶対に、音を立てるなよ?───」



──ミニっ子を岩陰に隠し、竜と対峙する。


「さあ・・・今から俺は・・・・・・、お前を殺す。」


「───グォォォォォオ────!!」


俺は鞄から鉄塊を取り出して大きく息を入れ、


獄炎術(ヘルフレイム)・・・上位錬成(エクスフォージ)。)


金属片の形を変えるために極限の集中状態を保ち、ゆっくりと・・・歩きだす。


上位錬成(エクスフォージ)単体でもかなり集中力を要するが、金属を熱するイメージも絶やさない。出来る限り最小限の動きで氷をいなし、紙一重で避けつつも湖に近づく。だがそれにつれて、攻撃を回避するのは困難になっていった。


「っ──!・・・・・・・・・。」


氷の刃が身体中をかすめていく。傷は増える一方、岸の冷気は凄まじく、心臓が凍り付きそうだ。俺は左手の火炎を自らの胸にかざし、鉄塊を構える。紅蓮の刃と言えば聞こえは良いが、これはただの鉄塊だ。命を奪うための道具、殺生の一助、敵意の象徴。とにかく、醜悪な鉄くずであることは間違いない。そして奴がこの湖の守護者であるなら、この熱は下劣な不純物に他ならないだろう。



しかしそれでも、火を絶やすわけにいかない理由がある。安定した氷の中で停滞するわけにはいかない理由が、今も岩陰で息を殺している。


(ならば俺は、異端者でいつづけよう。・・・このおかしな熱が冷める、その瞬間まで)



「・・・・・・・・・、いけるか・・・!!───」


──直線状に瞬間冷凍された湖に足をかけ、一気に速度を上げる。

テリトリーに侵入された湖の長は怒り狂い、大規模な吹雪を発生させながら乱雑に氷を吐き散らかす・・・が、


「耳があっても聞こえないなんてこと、ザラにあるんだよ・・・!!」


ステップと同時に継続発動させたのは、足音の代わりに大きな音を発生させる威嚇歩(メナスムーブ)だ。「代わりに」というのがポイントで、俺が使うと無音で歩行できる。スキル二つの同時継続は結構難しいが、聴覚のみで索敵するあいつはこちらの位置を測りかねているようだ。俺が声を発した座標に放たれたブレスをステップでかわし、氷上を駆けて距離を詰める。直径一メートルはある胴体の前で一気に踏み込み、俺は刃を大きく振り上げ、強く叩きつける───!!


「ダイヤモンドの熱伝導率はトップクラスだ。・・・過剰な自己防衛が仇となったな・・・!!」


「───ギュアァァァァァァア!!」



真っ二つに引き裂かれた竜は宙に(ひょう)を舞わせながら、断末魔を残して息絶えた。

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