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15話 一番楽な作戦だ

「しっかり掴んでろ、よっっ───!!」


高速で接近する箒を掴み、路地裏を滑走する。

(あの動きなら進行方向は箒の先端の一点、小通りまで八、五、ここか・・・!)


路地裏の端で、箒を掴んだまま振り上げる・・・!!


「──んのっ!!」


───────!!



飛翔。シャーと騒がしい音を立てて、暗い路地裏が遠く離れていく。極彩色の閃光を撒き散らす箒は、地上から天に還る流星のように見えているだろうか。宙に放り出された小さな少女を片腕で抱き寄せ、もう片方で箒を強く握る・・・というのも、好き放題に加速する箒に引っ張られるのみで、またがる暇など到底なかったからだ。


「・・・んでミニっ子さんよ。ギリギリのスリルを味わってたんなら謝るが、こいつは俺が降りればどうにかなるもんなのか?」


彼女は俺の言葉に反応して口を開けたが、そこから言葉が出てくることは無かった。本人も気が動転しているのか、それとも俺への嫌悪感か・・・なんにせよ、この出鱈目な箒はいつ止まるのか見当もつかない。俺はなんとか箒を動かし、怪我人が俺一人で済む程度まで高度を下げた。


「・・・掃除用具の割には、凄い速さだな」

「・・・」


屋根に足がギリギリ付かない程度に片腕で制御しているが、動力部分が一点のみで安定感のかけらも無く、なにより速度が尋常ではない。そろそろ何か話してくれないと、正直まずいんだが・・・


「クッ───!!」

「あっ・・・・・・ごめん・・・。」


どうやら俺に敵意はないようだ。それさえ分かれば質問が楽になるし、一言口に出したのだから、後はおのずと話せるようになっていくだろう。


「あー悪い。少し足をぶつけただけだ。・・・んで、こいつがいつ止まりそうか、分かっていることだけでも教えてくれ。」


「・・・わからない・・・ごめん・・・。」


全く似合わない思いつめた顔、彼女はかなり辛そうに見えるが・・・


いつ止まるか分からない、か。




「ま、それなら仕方ないな。高度上げるから、死んだらごめんな?」


───────!!


吹っ切れた俺は何も考えず空に駆け上がり、夜を華やか且つ暑苦しく飾る噴き出し花火の音だけを耳に入れて、円形の王都を見下ろした。


城壁の外には無限の大地、いつもより近い月がいっそう明るい。抱えた少女が異様に軽いのに加え、ただ箒を掴んでいるだけで景色が動き、珍妙な気分だが・・・



「・・・空を飛んだのは初めてだ。・・・かなり良いもんだな。」



珍しく自然に笑うことが出来た俺に、彼女は少し目を大きく開いてから答えた。


「・・・そう・・・?」


「ああ良いもんだ。・・・お前の行先は知らないけど、一旦王都を出るからな」

「・・・うん。とりあえず出る」


無口だが人見知りではなさそうな、変わった話し方をする。見た目は幼いが、彼女は特異な雰囲気を纏っているように見えた。そのためか会話にもどかしさを感じさせず、正直に言えば気が楽だった。


「俺は特に何もやってないが・・・出れたな、外。」


空からの景色は、俺と雨宮玲子が歩き回っていた時とは全く異なって見えた。王都の外は草原も好き放題に広がり、川が自由気ままに流れている。管理人もいない森は生命を思うがままに表現し、何万もの集合体でありながら一つの生き物のように振舞っていた。


突然に現れた謎の少女によって、俺は思わぬ形で分厚い城壁を超えることが出来たようだ。


「・・・あの湖まで動きそうか?」

「・・・知らない」


「はぁ・・・・・・りょーかい」


深い森林の中心に位置する湖は、地上からは到底たどり着くことが出来ないのだろうが、空は遮るものが無くて良い。


「・・・にしても非常識な出力だが、お前の魔力で動いてるのか?箒が止まったらポックリ逝っちまったりしないだろうな・・・」

「それは大丈夫。なんかぼーそー?してるだけで、死にかけたらとまるから・・・。」


彼女は少し強く裾を握る。この手は今まで何度も、命が尽きてしまうような痛みに耐えてきたのだろうか。


「・・・辛かったのか?」

「・・・・・・うん。すごく痛かった」


痛々しく、か細い声でそうこぼした彼女に、その場で繕った慰めの言葉など刺さるはずもない。俺は他人で、さらに言えば犯罪者だ。しばらく星のない空を見つめ、無力感を振り払うように話す。


「作戦は三つ、好きなものを選んでくれ。一つ目は、箒が止まるまで湖を回って、俺が死にかけの上に溺れかけのミニっ子を救出する、退屈な作戦。二つ目はお前を気絶させて箒を止める、面倒な作戦。そしてもう一つは・・・



この場でその『ぼーそー』を克服して一生楽しく箒に乗る、一番楽な作戦だ。」


最後に提示した案に、彼女は不可解な面持ちで返す。


「・・・そんなこと言われても、どうしたらいいかわからない。」


自然な反応だ。止め方が明確に分かっているものを暴走とは呼ばない。だが、魔力が暴走して死にかけることを知っているなら、何故箒に乗る必要があったのだろうか。何かを追っているのか、それとも逃げているのか・・・意思と関係なく魔力が作用してしまった可能性もある。


・・・気になることは多いが、興味本位でしかないし、子供を質問攻めにするのは気が引ける。

放り出された足をパタパタさせている少女を抱えたまま、俺は思考を加速させた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミニっ子。魔力感知は使えるか」


言葉の意味をはかりかねたのかは知らないが、少し頬を膨らませて不満の表情を見せる。


「・・・まりょくかんちは、だれでも使える」


「・・・やってみ?」





困惑していた彼女が「あっ」と小さく呟くのと同時に、俺は箒を持っている手をその背中に回し、強く抱きしめる。極端に軽くなった右腕は、予想通り箒の出力が止まったことを物語った。なるべく風を受けないように彼女を守りつつ、落ち着いて口を開く。


「はーい、大きくはいてー・・・・・・吸ってー。───」




──────────!!!



───────




────


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