14話 世界は結構綺麗だ
「今までそのガラクタを換金してやってたのは、お前への応援の意味もあったんだがな。・・・もう俺の前に姿を現さないでくれ」
「・・・・・・悪かった」
・・・
「帰れ」
「・・・すまない。」
・・・
「悪い。」
・・・
「君に売る団子は・・・もう無いよ。」
「そうか・・・・・・悪かった。」
西日差す夕刻の団子屋。ここでの生活に余裕が出てきた頃から、俺は情報収集として毎日訪れていた。両親を亡くした貧乏な少女が営んでいるが、丁寧に作られた団子にしても素材が悪く、上等な甘みがでないがためにあまり繁盛せず、だから上質な素材を入手できないという負の連鎖が起こっていた。それでもその少女は明るい顔を絶やさず、大変人柄が良かったから、俺はその善意を利用させてもらっていたんだが・・・。
もうそんな訳にもいかないらしい。
路地裏で座り込み、ため息交じりにこぼす。
「・・・あの塩辛い味にも、慣れてきたところだったんだがな・・・」
今までは第三騎士団の手配書が内容をぼかしていたこともあり、俺は『なんとなく重要指名手配の奴』程度の認識だった。身の上に多少なりとも事情がある貧民街の人々は、俺を同士のように扱っていたようだ。
しかし、今の俺に容赦をする人間はいないだろう。
第二騎士団のエリートが『呪術』を行使していたのだから、何処に黒幕が潜伏しているのかは見当もつかない。団長は呪術について公表することが出来るはずもなく、第二のおっさんはただ殴り殺されたということになる。
「・・・俺はただの凶悪殺人犯に他ならないってわけだ。」
だが、弁解する気など毛ほども無かった。こうなることはあいつを殺すと決めた時から分かり切っていたことだし、俺が奴を絶命させたことに変わりはない。それに、呪術で化け物になったなどと弁解して罪を逃れ、暗躍する黒幕を無視して死にゆく人々を見殺しにすることが出来るのなら、最初から化け物を殺そうなどとは思っていないのだ。
そんな因果で、俺は晴れて人殺しとなった。路地裏のゴミを『浄化のルーン』という石ころで綺麗にして換金する伝手も失い、もう所持金も残りわずかだ。
「・・・ま、金があったにせよ、ものを売ってくれる店がもうないからな。悲観しててもしょうがないってこった。」
鞄から食材を取り出し、非科学的な水色の石ころと共に鍋へ放り込んでいく。ちょっとしたスタンドに置いた鍋の下に指をかざし、
「獄炎術。」
全てを燃やし尽くす上位魔法を、おそらく最も覇気のないであろう掛け声で発動する。魔法学校の英知であるらしい業火術を凌駕するその魔法は、小鍋のスープに火を通すのには丁度いい弱火だった。
「上位錬成・・・・・・。」
木材を変形させて食器を作る。巨大な岩をも変形させる錬成術は凄く便利だ。俺の場合時間をかけて数ミリずつ変形する攻撃力皆無の魔法なのだが、物凄く集中すればきめ細かい仕上がりになる。小物づくりにおいては、王都のプロ顔負けの実力を持っていると言っても過言ではない。
俺があいつを殺した時の瓦礫も、この魔法によって切れ味が増してあった。
「・・・人を殺すための刃物も、この手は簡単に造りだせるって訳だ」
つくづく人殺しに向いている自分に皮肉をたれながら、不格好なスープを口に運ぶ。
「・・・思ったより美味いな。」
ぶつ切りの食材が乱雑に入ったスープを、はしゃいで喜ぶこともなく、かといって絶望もせずに食べ進める。
思えば、俺の生活は今までと大して変わらないのかもしれない。日々自分を含んだ人間全体の醜さに嘆きつつも、食事と睡眠を楽しみ、自他の綺麗な部分に期待しては落胆して、一喜一憂を繰り返す。
それだけなら、幸せも絶望も等しく与えられるなら、人生に大した意味は無いように思う。
だが、俺は確信している。
「世界は、結構綺麗だ───」
───────!!
箒にまたがり、光をまき散らしながら突っ込んでくる少女を見て、俺はニヤリと笑った。




