11話 経験は洗脳と紙一重だから
【・・・王都の姫が恋に落ちた。相手は城下の貧乏な青年で、婚約者がいた王女は自分の立場を呪って病に侵された。その病は王家の人間をはじめとして瞬く間に人々へ広がり、とうとう婚約者である隣国の王子にうつってしまった。その時、王都で一番の大魔導士が現れ、病の正体は『呪術』だと語った。】
登場人物は姫、王子、青年、大魔導士の四人だ。
【彼女の強すぎる想いは『呪詛』に変わり、『呪詛』を持ったため『呪術』が使えるようになったのだと大魔導士が言う。姫は自身も知らぬ内に王子を呪ってしまっていたのだ。
だが、姫を心から愛していた王子は、事の一切を知ってなお彼女の幸せを願った。古くからの友人である大魔導士に頭を下げ、『呪詛』を姫から取り除く魔法を聞き出した彼の決心は早く、すぐに魔法を習得し王都へ赴いた。】
『呪詛』を持った者が『呪術』を使えるようになる、というのは事実だ。先刻から俺の脳内を回っている醜悪なイメージがそれを確信させた。
【姫の自室の扉を開けると、彼女は顔を真っ青にして座り込み目に涙を滲ませて震えていた。そんな姫に、王子は優しく微笑んでその手を取った。
「もう、大丈夫だよ。」
そう言って彼女の手の甲にキスをすると、王子は颯爽と姿を消した。
気づけば、姫の中の呪いは完全に消え失せて、人々は生気を取り戻したのだった。姫は城下の青年と結婚し、末永く幸せに暮らしていく・・・・・・】
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話を終えた団長は、一口だけ飲んでカップを置き、目を閉じるようにしながら息を吐いた。
「・・・これ、初等学舎の教科書で何度も習うの。最後、どう考えても不自然だよね。全然ハッピーエンドじゃない」
学舎は、現代の学校にあたる王都の教育機関だ。初等学舎に限り、貧民街の子供らも入舎の権利を有している。その学び舎で習うともなれば、この童話は王都にとって意味のあるものであることは間違いない。
「・・・どんな理由にせよ、わざと違和感を残してあることは間違いないな。教育目的なら、この世の理不尽に疑問を持たせるのが狙いか?人間にとって、経験は洗脳と紙一重だから。」
「あなた何歳?」
「・・・悪かったよ。」
少し頬を膨らませた彼女だったが・・・俺は緊張しているのだろうか。BGMがないことを実感するような雰囲気で、こいつと真正面から話をしたのは初めてだったな、とらしくないことを考えてしまう。
「そういう意味じゃなくて、単純に気になったの!・・・私の番は終わったから、さっさと全部話してもらうよ。」
どこまでもお優しい団長様だ。犯罪者の意見に耳を貸すどころか、気を遣ってくれている。おっさんへの警戒はそのまま、俺は会話を切り出した。
「待たせてしまって申し訳ない。聞かれたことには全部答えるさ。まずは、童話の内容を聞きたがった理由なんだが・・・」───
「──ふーん、なるほどね。・・・あいつに呪われたのは分かった。このタイミングで言ったのも、あなたなりの配慮なんでしょ?」
童話を語っていた時から変わらず、彼女は余裕のある表情を保っている。俺の意も汲んでくれているようだし。しっかりと話は頭に入っているのだろう。
凛としてティーカップを手にする彼女に多少戸惑いつつも、声をかける。
「・・・それ、逆さだぞ。」
空の、それに逆さのティーカップに口をつける彼女は慌ててカップを放り、宙を舞うそれは彼女の真後ろへと移動していく。
「っ───!」
「きゃあっ!!」
俺は身を乗り出してカップを掴んだ。団長は動揺を露わにして絶句しているが、いきなり迫って驚かせてしまっただろうか。
「・・・驚かせてすまな───っ──!!」
──第二の騎士が目を覚まし、立ち上がっている。俺が同じ体制のまま数秒程様子を確認すると、奴はこちらに気づいてはいないが挙動不審な動きを見せる。
「ちょ、ちょっと・・・近い・・・」
「まだだ」
「ええぇ・・・?」
「おいおい・・・どうしちまったってんだ・・・?」
「そ、それこっちのセリフ・・・」
男は棒立ちして笑みを浮かべ───
「はは・・・は・・・・・・────あひゃひゃハハひゃハハハハハ────!!」
──グロテスクに体が膨らみ、巨大な肉塊、醜悪な化け物へと変貌する・・・!!
「あんたはここにいてくれ」
鞄のポーションを流し込みながら、俺はテラスの段差を駆け下りた。




