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10話 残念だが罠は張れなかった

「もう、大丈夫だよ。」


朦朧とする意識の中で少女の顔を視界に納めるが、『呪術』とか言ったか、あれが相当きつかったため、いつも通りに逃げる気力はとうに潰えている。おそらく彼女の言葉に明確な根拠はないのだろうが、頭がぼんやりしているのが原因か、妙な安心感すら覚えてしまっていた。

邪気のない眼差しに、重い瞳が下がっていく。


そうだ・・・治癒のポーションとかいうのが鞄に入ってたか・・・


腰に携帯した小さな鞄に手を伸ばすと、中身のイメージが浮かんでくる。ガラスの小瓶を取り出したが、栓を上手く外すことが出来ない。



──カランッ───



力尽きた手から、小瓶が零れ落ちたようだ。それだけの事であったが、途方もない無力感が俺を包んだ。



───────



「・・・飲んで。───」


(──。)



────



流し込まれた液体が喉を通ると、数秒で目が開いた。


「・・・悪い、助かった。」


素朴な言葉を絞り出したが、渦巻く感情に息が詰まっている。穴があったら入りたい、という言葉は大げさでゆかりのないものだと思っていたが、そうでもなかったようだ。後光と共に柔らかく微笑む彼女の顔を直視することが出来ず、俺は目を逸らしたまま礼を言って口を継ぐんだ。情けない限りだ。


「何があったの?女の子のところに戻ったら第二のあいつが倒れてて、辿ってきた取り巻きの奴らもみんな気絶しちゃってたし。」


「・・・・・・腹立って全員殴った。言い訳は・・・思いつかないな」


「当たり前みたいに言うけど、あいつら第二のエリートだよ?集団で強化魔法を重ね掛けして、何倍も強くなってるんだけどね・・・・・・とりあえず、聞きたいことが山ほどあるから、今日こそは大人しく捕まってもらうよ。」


ついにやってきた逮捕の瞬間だが、今はどうでもよかった。


「・・・分かった。」


俺の目を見てから、団長は俺の方を向きもせずに先を歩く。逃げられても対応できる実力があるから拘束しない、という考えならまだ分かるが、これは不用心にもほどがあるだろう。


「ひとついいか?」


貧民街を抜ける手前で口火を切る。


「なに?言い訳、思いついた?」


「いや。第三騎士団長様は、『呪術』を知ってるかなと思って。」

「知ってるよ。」


即答。当然のように答えるが、あれほど凶悪な魔法を容認しているのだろうか。しばらく黙って考え込んでいると、団長は不可解な面持ちで話す。


「『呪われた姫』の童話に出てくる『呪術』でしょ?王都に住んでる子供なら、みんな読んだことあるんじゃない?」


「・・・詳しく聞かせてくれ。頼む」


「・・・罰ゲームみたいで恥ずかしいんだけど。」


団長の顔は驚きの色を見せた後、すぐに目を背けた。読み聞かせを乞うような真似をするのは悪いが、『呪われた姫』という童話からヒントが得られるのは、ほぼ間違いないだろう。


「他の事も洗いざらい吐くから、頼む。」


立ち止まった俺が頭を下げると、慌てた様子で答える。


「わ、わかったから!!・・・じゃあ、一旦本部に───」

「──場所はあそこにしてくれ。正直他の場所だと落ち着いて話せない。・・・ちなみに、残念だが罠は張れなかった」


場所を決めようとするであろう団長を制止して、俺は町門前の古びた飲食店のテラスを指さす。理由は公言した通り、転がっている第二のおっさんを見張っておかなければ安心できないからだ。


「残念って・・・・・・はあ、しょうがないなあ。」


自分で言い放っておいてなんだが、かなり図々しい要求だったにもかかわらず、よく了承してくれたものだ。やはりこの団長には興味が尽きない。



「何か頼まないとだけど、お金、持ってないんでしょ?」


「奢ってくれるのか?・・・なら、コーヒ・・・いや、ミルクティーをくれるととても嬉しい。」


メニューの写真を見比べて固まっている団長にそう伝えると、彼女はミルクティーを二つ頼んだ。

テラスの椅子に腰掛けて第二騎士が良く見えることを確認し、団長の言葉を待つ。


「・・・何から話そうか・・・」

「『呪われた姫』の話を聞きたい。一刻でも早く。」


「あなたねえ・・・・・・」


急かす俺に呆れたような表情を浮かべつつも、彼女は童話の概要を簡潔に語った。

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