何もかも落ちて溶けていく
シロトウフとエンカウントだ
何よりも立地が悪い
砦から少し離れたここは道と呼べるような道がない
崖をピッケルで突き刺して補助としながら進むような場所だ
山なら崖で下は奈落の谷ではなく溶岩
だからといって立ち止まる訳には行かないが
「ノルタワニチッア?」
女の子が不安そうに自分の袖を掴む
お化け屋敷やらのそういうシチュエーションだったらどれほど理想的か
身長差など諸々を考えて女の子を担ぐことは出来ない
担ぐなら米俵のような扱いで担ぐしかない
ここは自力で渡ってもらう
「ピッケルを…こう!突き刺して、横に移動していくんだ」
「ヨルテイウ…」
突き刺して、腕の力を使って少しずつ横に移動していく
命綱のない崖渡りだ
突き刺す力が弱くても死ぬ
ピギュオエッ!
シロトウフは待ってくれることなく、こちらに炎の玉を吐いてきた
狙いは女の子
咄嗟に抱き寄せる
片手で二人分の体重を支えるのは無理があるだろう、でも耐えるしかないっ
ドカンっ!
土地がえぐれて道と崖が切り離された
薄皮一枚繋がっていたようだ
しっかりと助走をすれば戻れるかもしれないがそんな余裕はない
「行けるか?」
「…ン」
自分から離れながら
女の子が崖渡りをし始めた
自分もその後に続く
シロトウフは直ぐに打ってくる様子は無い、漂い、こちらを見てくるだけだ
◇
…ピギュオエッ!
崖渡りもあと少しというところまで来た
渡ってきた道はシロトウフによる爆撃でボコボコに加えて燃え盛っている
順調に進んでいた、シロトウフの狙いが甘いからと油断していた
ズガーン!
「なっ」
自分のピッケルを刺していた所が爆発した
刺す壁がなくなりピッケルが壁から離れる
爆風もあった為に壁から少し距離がある
下に広がるは溶岩
女の子が驚愕の瞳を向けている
終わったと思った
ガキんっ
自分のピッケルに女の子がピッケルを絡めてきたのだ
「メ…ダ…!」
ガクンと、宙に投げ出された状態から体に重力がかかる、上を見上げると女の子が苦しそうにこちらを見て、笑っていた
女の子の顔が視界にうつる
利き手でピッケルを持ち、自分のピッケルを引っ掛けている
もう片方の手で剣を壁に刺して耐えていた
「ヨケダイナイタッモガチンケイケノタナア」
何かを呟くとにっと笑った
軽口叩いてる様子だが、そんな余裕は無さそうだ
女の子の手が震えている
長くは持たなそうだ
ガクンとなった時にピッケルからずり落ちかけている
自分も彼女も手の握力に限界が来るだろう
何とかしなければ
そう思った矢先
ピギョエェッ!
シロトウフが間髪入れずに火の玉を吐いてきたのだ
「なっ!?早すぎる!」
「ッ!?ッイヤハ!」
今ここで俺を落として
彼女だけ行かせれば崖も渡りきることが出来て
逃げ帰ることも出来るだろう
腹を括り…
俺を置いて先にいけ
彼女を見上げ口に出そうとするが
詰まった
言葉が伝わらないからだ
「おっっ…あっ…!」
口が歪み、目頭が熱くなった
彼女に助けられ、ピッケルを握りぶら下がる自分があまりにも無力で惨めだった
「…ごめん」
つぶやき、俯く
下は溶岩の池だ
周りに掴まれそうな岸辺なども無い
シロトウフから吐かれた炎の玉が間近に迫ってきた
「ナタッカナクタレラシハニタナア」
彼女が何かを呟いた
そして
ピュゥイッ!と指笛が響き渡る
同時に自分の体が自由落下を始めた
彼女が利き手で指笛を吹いたのだろう
これでいいと思った、これで彼女は助かると思った
そう思い上を見ると、彼女と目が合った
儚げな笑顔だった
そして彼女は逃げることなく炎の玉の直撃を受けた
「…なっ!」
彼女を中心に爆発が発生する
落下して遠のいていく自分にもその爆風は届いた
しかしその爆発で周りの地形が壊れることは無かった
自由落下をする自分を上回る速度で彼女の体が落ちていく
咄嗟に手を伸ばすが届くはずがなかった
ぱちゃん
彼女はあっさりと溶岩の中に沈んで行った
「あぁぁ…」
目前に溶岩が迫る、自分も後を追うことになるだろう
目を瞑り、溶岩に浸かる瞬間を待った
………?
熱さを感じない
いや、暑さは感じているのだが…
恐る恐る目を開けると何かの背中に着地していた
カバのようなサイのような、しかし体は赤く独特な皮膚を持っている
何より溶岩を泳いでいるのだ
そして自分は助かったのか
……助かってしまったのか
周りを見る
溶岩の水面上から見た景色はえもいえぬ恐怖を覚えた
周りのほとんどが重力を無視した赤い浮島だったからだ
先程崖渡りをしていた土地も重力を無視した土地だ
…シロトウフは自分を見失ったのか別の方向を見て漂っていた
周りは溶岩の水面ばかり、遠くに陸地となるような場所がみえ、この生き物はそちらに向かっているようだった
…彼女の姿は見当たらない
いや、むしろ落ちたところを見ていたのだ
信じたくないだけだ
なんで、自分は助かってしまったのか
「あ…あぁ……」
自分の中から何かがゴトリと落ちた気がした
涙が溢れ顔が熱い
キュベェエッ!
それはシロトウフの声
咄嗟に上を見上げると、先程のシロトウフがこちらに向けて炎の玉を吐き出していた
この場所であの玉が爆発すれば彼女と同じように溶岩に落ちることができるだろうか
彼女のいないこの世界で、俺は何を支えにすればいい?
炎の玉が目の前に迫り、今までの、この世界で目が覚めてからの短い期間を思い出す
しかし走馬灯にも炎の玉が邪魔だ
嫌に的確に狙われた炎の玉を火の粉を払うように手を振るう
このまま爆発し、死ぬのだろう
思わず目を瞑ったが、爆発が身を包むことは無い
恐る恐る目を開けると炎の玉はシロトウフの目の前にあった
次の瞬間に爆発し、シロトウフが悲鳴をあげて消滅していった
ギュヨワぁあぁぁっ…
手の甲がほんの少しだけ熱い
…炎の玉は弾き返せた?
そのことを知っていれば今までの道中は楽になり、彼女が爆発することもなかったかもしれない
…あぁ、彼女はもう居ない
いないのか
助けることもできたかもしれない
その事実はさらに重く体をするようだ
そこから先は、あまり記憶にない
まるで視界が霧で覆われたように見えづらかったのは憶えている
…あぁ
ああぁ…
なるべく今日中に完結させる予定です、アプデも来てますし
ただ終わらせ方が完全に打ち切りになりそうです…
異言語がテーマで回収してるので個人的には満足なのですが…