第1話 会議室
いつも通りの朝。
時計に映った6:00の数字が目に入り、再び眠りにつくかの葛藤が生まれる。
仕方ない、起きるか。
意を決して時計に手を伸ばし、アラームのスイッチをオフに設定する。
その後、布団からゆっくり這い出したが、疲れが溜まっているのか足に違和感を感じる。ただ、明日から始まる大型連休を考えるとそれほど気分は悪くなく、普段と同じように準備を済ませ玄関に向かった。履き慣れた靴に足を通し、携帯で時間を確認する。電車の運行状況も出発時間も問題なさそうだ。片方の手でドアの鍵を開け、鈍い音が鳴ると同時にもう一方の手でドアを向こう側に押し込む。
「!!!」
目を疑った。
ドアの先に、大きな部屋、そして部屋の中心にテーブルといくつかの椅子が置かれているのが見えたからだ。
複数の視線がこちらに向けられたのを感じて、慌てて一歩下がった後、開けた扉をいったん閉める。
目の錯覚だろうか。一呼吸置いて、ズボンのポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。表示された時間は、電車の出発時間に向けて秒針を進めている。何だと疑問に思いながらも先ほどよりもゆっくりとドアを開ける。
「!!!」
唖然として、言葉が出てこない。
少し開けたドアの先には見慣れた景色はなく、先ほどの部屋が視界に映った。夢の中かと一瞬頭をよぎったが、朝の支度ではシャワーも浴びて、歯磨きもしている。夢でない実感があった。ここは多分現実のはずだ。思考停止していたが、逃げ腰の無意識は生きていたようで、少し開けた扉を再び閉め、すぐに鍵を閉めた。
ドアの覗き穴から様子を恐る恐る伺うが、いつもと同じマンションの廊下がそこにある。ざわついている心を落ち着かせるため、一旦履いた靴を脱ぎ、部屋に戻った。
危機意識だろうか、ふと出口を確保したいと思い、ベランダにつながる窓の鍵に手をかける。窓の外には、通学途中の学生達や、小走りで急ぐサラリーマンの姿が見える。少し安心して、窓の鍵に力をかける。
「何だこれ」思わず声が出てしまう。
なぜか、窓の鍵が動かないからだ。何度試してもびくともしない。
焦りだけが高まってくるのだが、どうにもならない。と同時に窓とは反対側にある玄関を振り返る。
「コン,コン,コン」とドアを叩く音が聞こえてくる。
何度も確認するようなリズムで向こう側から合図が送られてくる。
手汗をかいているのがわかる。
鼓動も早くなるのがわかる。
「まもなく…の…時間となります。速やかに…部屋にお戻りください」
機械的な音声に近い、ぎこちない声が聞こえてくる。
部屋に引きこもってこの奇妙な現象が去ることも一瞬考えたが、再度ドアの先から聞こえてくる声に押され、玄関まで足を進めた。ドアの反対側にいるだろう人物に注意しながらまた、恐る恐る扉を開けた。
「さて、そろそろ時間も頃合いなのではじめようか。」
司会者のような語り口が部屋の奥側から聞こえてくる。同時に声の主は、こちらに目をやりこう言い放った。
「皆に紹介しよう、この人間が今回の参考人だ。」
先ほど自分に向けられた視線よりも多くの視線が再び向けられた。